コスト低下を促す「仲介形態の多様化」とは?

また、投資信託のコスト低下の流れは、運用時に日々差し引かれる信託報酬においても同様で、それを後押しするのが「仲介形態の多様化」だと金子氏は続ける。「より広く捉えるために、あえて『仲介形態』という言葉を使っていますが、例えばラップ口座や確定拠出年金をイメージすれば分かりやすいでしょう。これらは従来の販売チャネルと異なり、コストの低さにインセンティブが働きやすいチャネルなのです」。

ラップ口座とは顧客と金融機関が投資一任契約を結び、運用方針を示した上で、資産の運用や管理を任せる金融サービスのこと。中でも投資対象を投資信託に絞ったファンドラップは、ここ数年で販売に力を入れる証券会社や銀行が増え、残高を急速に拡大させている。

そのファンドラップの運用担当者がパフォーマンスを向上させようとすれば、いわば運用のツールである投資信託のコストは低いほうが有利になる。企業型確定拠出年金の担当者にしても、従業員の運用成績向上がミッションである以上、コストは低ければ低いほど良い。こうした新たな「仲介形態」が存在感を増している中で、信託報酬も低下圧力にさらされているというわけだ。

実際に信託報酬、中でも運用報酬(信託報酬の中で運用会社の取り分)は近年、日本でも確実に低下してきている。投資信託市場全体で、これまで主流だったアクティブファンドからインデックスファンドの比率が高まっていることに加え、インデックスファンド全体の運用報酬率も下がってきていることがその主な要因になっているという(下図参照)。

ただし、アクティブファンドの運用報酬については、「実はほとんど下がっていない」と金子氏。「もちろん、低下圧力が高まっているのも確かです。インデックスファンドの運用報酬が下がることで格差も広がっていますから、それに見合うだけのアルファ(超過収益)が求められる。プレッシャーは今後も高まることになるでしょう」。

しかも、仲介形態の多様化と販売会社のビジネスモデルの変化が、それを加速させるというわけだ。

好成績が続く投信の価値はより高まることに

もっとも、コストの低下が求められているのは、結局はパフォーマンスに影響するから。逆に言えば、コストを凌駕する圧倒的なパフォーマンスをあげられる投資信託であれば、コスト水準に関わらず選択されることにもなる。

金子氏も、「パフォーマンスの良いファンドに関しては、これまで以上に評価される時代になる」と強調する。「今後は証券会社や銀行といった従来の販売チャネルでも、ラインアップの入れ替えが進むでしょう。その際に運用成績の良いファンドに対しては、適正な運用報酬を払うべきだという論調が高まっていく可能性もあるはずです」。相対的に高い成果をあげ続けている運用会社、ファンドマネジャーの投信であれば、むしろその価値は高まるというわけだ。

リーマン・ショック以降、世界の株式市場は基本的には右肩上がりに推移してきた。そうした環境では市場全体に投資することが有利となり、インデックスファンドの存在感が増していくのと併せて、コストが注目されることになった側面もある。

しかし、コロナショックで相場環境は一変し、今後とも不安定な状況が続いていくに違いない。大きな流れとしては、インデックスファンドを中心にさらなるコスト低下が進む一方で、単にコストの水準ではなく、運用の良し悪しでアクティブファンドが選ばれる傾向も加速していくはずだ。アクティブファンドにとっては、まさに真価が問われるタイミングだと言えそうだ。