上昇トレンドも、関税と炭素繊維規制で急落

東レの株価は2024年11月に高騰しました。公表した最大1000億円(自己株式除く発行済み株式数の9.67%)の自社株買いが好感され、投資家の買いが集まったと考えられます。2025年2月には1108.5円をつけ、上場来高値(1208円、2017年11月)までわずか100円に迫る水準に達しました。

しかし、足元は乱高下の状況です。米国の関税を巡る動きや、EUによる炭素繊維の規制報道などが売り圧力となり、株価は一時818円まで下落しました。その後、相互関税の90日間停止が伝わると急反発し、株価は900円台を回復しています。

【東レの株価チャート(過去5年間)】
・株価:929.9円(2025年4月10日終値)

 
出所:Tradingview
 

東レは割安株として知られます。PBRは足元で0.7%台と、1倍を大きく割り込む状況です。PBRとは株価純資産倍率のことで、純資産に対する株価の倍率を指します。純資産は解散価値の意味があり、1倍割れとは事業を続けるより解散した方が株主の利益が大きくなる状態といえます。以上から、PBR1倍割れの銘柄は純資産からみれば割安といえます。

東レでは利益剰余金の積み上がりから、PBRは株価が上場来高値に達してやっと1倍を回復します。なお、冒頭の自社株買いが進捗すれば資本合計(純資産に相当)が引き締まるため、PBRはある程度改善する見込みです(取得期間:2025年11月まで。2025年3月までの取得額:384億円)。

【東レのPBR(2025年4月10日終値)】
・資本合計:1兆9139億円
・1株あたり資本合計:1206.6円
・PBR:0.77倍
・(参考)東証プライムPBR:1.3倍(2025年3月)
※東レの資本および株式数(自己株式除く)は2024年末
※東証プライムPBRは加重平均

出所:東レ 決算短信、日本取引所グループ その他統計資料

東レはPBR 1倍割れの解消に取り組んでいます。自社株買いはその一環で、原資は政策保有株の売却によるものです。またROIC(投下資本利益率)経営を導入し、資本効率の改善も図っています。これらが評価されれば、PBRは1倍を回復するかもしれません。

東レはどのような企業なのでしょうか。概要とROIC経営の取り組みを解説します。あわせて業績の振り返りと見通しも押さえましょう。