紛争終結後の復興需要と日本企業のビジネスチャンス
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻(以下、紛争と呼ぶ)から3年が経過しました。足もとでは米国が仲介するかたちで紛争終結の機運が少しずつ高まり始めているように感じます。紛争終結後のウクライナの復興需要について考えてみたいと思います。
ウクライナの経済規模は2023年の名目GDPベースで約25兆円に対して、今後10年間の復興需要は5,240億ドル(150円/ドル換算で78.6兆円)、年平均7.86兆円(※)にも及びます。
復興需要が期待されるセクターは様々ですが、住宅840億ドル、交通780億ドル、エネルギー・鉱業680億ドル、商業・産業640億ドル、農業550億ドル等です。それぞれのセクターにおいて日本企業の強みが発揮できると考えています。住宅では、非常用かつ簡易・安価なコストながらも強靭な設計を強みとする技術の提供、商業・産業を併せた観点では建設機械・工具メーカーの同エリアにおける日本企業の存在感と過去の事業実績、交通では、電車・バス等のインフラ技術に強みをもつ企業等です。
これらのセクターにおける復興は日本のみならず世界が協力して取り組むことで復興のスピード感(数年)が出ると考えます。
一方、農業の復興では戦争による農地の汚染により先のセクターに比べ時間軸が長く(数年~数十年)なりそうです。ウクライナはそもそも黒土地帯で肥沃な土地で食糧安全保障の確保という観点で地理的重要性は高いです。
農業の復興というキーワードから穀物の生産増・種需要増加・肥沃な土地の為、施肥不要とも言われていますが肥料需要増・農機需要増・土壌アセスメント需要等といった具合に、その工程の上流まで辿りその課題解決から取り組む必要があり、そこに日本企業のニーズとチャンスがあるかもしれません。
紛争によって汚染された農地を再生させるアプローチは、
1.評価と計画、2.爆発物と瓦礫の除去、3.土壌浄化技術、4.水道システムの復旧、5.浸食と土地管理、6.モニタリングと持続可能な農業の実施
です。特に3.土壌浄化技術ではコストパフォーマンスかタイムパフォーマンスどちらを選択するかによって手法が分かれます。また重金属による汚染では自然界の土壌微生物による浄化作用では賄いきれず汚染された土壌に不溶化材を混合することで、重金属などの有害物質が地下水に溶出するのを防ぐ不溶化が必要です。この不溶化技術に使用される素材や材料において日本企業の貢献ができるかもしれません。不溶化材料そのものや、害となる重金属の固定化・安定化させる材料等です。農業復興550億ドル(150円/ドル換算で8.25兆円)、年平均8,250億円の割り当てによって、環境アセスメント・土壌改・種子・肥料・機械の各バリューチェーンのビジネスチャンスは変動します。
あらためて、この紛争は平和が目的のはずが大国の国益優先にみえている人もいるかと思います。本末転倒な動機であり、執筆時点の2025年4月3日では交渉の進展が無く、膠着状態ともいえる状態をみて交渉決裂と長期化リスクも考えられます。また破壊された地域はロシアの占領地域となっている場所もありますので上記の通りの復興需要にならないかもしれません。時を同じくして超大国による貿易不均衡の是正が行われています。このような大きな潮流の変化をきっかけに、これまで超大国に対するシングルパスであった日本のビジネスをマルチパスにするきっかけかもしれません。
最後に、1日でも早い紛争解決を切望しながら、今後も関連する日本企業への取材を通じて、そのビジネスチャンスを確認してみようと思います。
※2025年2月25日各種機関(ウクライナ政府、世界銀行、欧州委員会、国連)による紛争の第4次被害・ニーズ調査RDNA4(Fourth Rapid Damage and Needs Assessment)による
【引用データおよび参考文献】
・独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO) ホームページ
・WORLD BANK GROUP ホームページ
・『新版 図解 土壌の基礎知識』藤原俊六郎 著