イーロン・マスクより今治の艤装工(ぎそうこう)!

かつて“斜陽産業”とされた日本の造船業が、今ふたたび脚光を浴びています。約20年にわたる停滞を経て、地政学の変化と気候変動という2つの外的要因が、業界に新たな風を吹き込んでいます。

2008年のリーマンショック以降、世界の造船市場は供給過剰に陥り、中国・韓国の国家補助金を背景にした価格競争が加速、日本の多くの造船所は統合・撤退を迫られました。現在、更新サイクルによる需要回復が見られますが、生産能力や人材の不足、そして技術的リードの喪失といった課題も依然として残ります。

一方で、米中対立が生んだ地政学的な再編は、日本にとって大きな好機でもあります。アメリカは造船の中国依存をリスクと捉え、造船産業の再建に乗り出しています。休眠中の米国造船所を再活用する動きも活発化し、ここに日本企業が参入する余地が広がっています。さらに、船舶エンジンの設計分野では、日本の独立性と技術力が見直されて、国際市場でのシェア拡大につながる可能性があります。

環境面でも造船業を取り巻く状況は大きく変化しています。国際海事機関による燃費規制の強化により、「環境性能=競争力」という新たな基準が世界に浸透中です。重油からアンモニアや水素といったCO₂を排出しない新燃料への転換が模索されるなか、日本の強みである省エネ設計や軽量構造が再評価される余地があります。

特に注目されるのが、「ばら積み船」における優位性です。日本の造船所は高効率な船形設計などにより、初期コストは高くても長期的に運航コストを抑えられる船を提供しています。中国・韓国がこの船種にあまり注力していない今こそ、日本が強みを活かし、より積極的な営業戦略へと転じる好機です。

また、付加価値の高い船種へのシフトも期待されます。CO₂輸送船、砕氷船などは、高度な技術と設計力を要する分野であり、高い利益率も見込めるのが特徴です。脱炭素時代の新しい船である CO₂輸送船は日本の取り組みが先行しており、大きな期待が寄せられます。

さらに、北極海航路の実用化も将来性を秘めています。温暖化の影響により夏場の氷が減少し、スエズ運河経由に比べて大幅な航行距離短縮が可能になりました。それに伴い、砕氷型輸送船の需要が高まることが予想され、この分野に強い北欧との技術提携が期待されます。

こうした航路の変化は、補修産業にも影響を与えます。交換頻度が減る側面もありますが、より付加価値が求められる側面もあるでしょう。氷による自己洗浄効果が減り、フジツボなどの海洋生物が船底に付着しやすくなることで、耐汚性や耐氷性の高い塗料が必要となることが一例として想定されます。

人の手で築かれる造船業は、建設業と同じく労働集約的な産業です。イーロン・マスクのような象徴が登場しなくても、長く厳しい時代を支えてきた職人たちの技術が、いま再び時代の風を受けて動き出そうとしています。

全文を、ぜひコモンズ考よりご覧ください。
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