高齢者の健康維持、学校のプール学習、デジタルの活用といった新需要が、今後のフィットネス産業を押し上げる
突然ですが、皆さんは健康維持のために日頃、どのような取り組みをされていますか?ウォーキング、ジョギングなどを行っているという方もいらっしゃれば、定期的にフィットネスクラブやスポーツジム(これらをまとめて、本稿では「フィットネス施設」と総称します)に通っている、という方もいらっしゃるかと思います。24時間ジムは街中に多くありますし、隙間時間を活用してトレーニングができるような施設も今では当たり前のように見られます。フィットネス施設の市場自体が確実に拡大していることは感覚的に違和感のないところでしょうが、今後、さらに大きな変化も予想されますので、その点についてご説明していきます。
まず、ここで改めて言わずもがなではありますが、日本社会における大きな変化として、急速な高齢化の進行があります。いわゆる団塊の世代が2025年には後期高齢者(75歳以上)となり、これから2042年にかけて日本は高齢化のピークを迎えます。高齢者の方々が健康を維持するということは、ご本人にとって大事なことであることはもちろんですが、国の社会保障費の膨張をいかに防ぐかという観点でも極めて重要ですし、高齢者の健康寿命を延伸することに資するようなサービス、プログラムの提供がこれまで以上に求められるようになるでしょう。実際に近年ではリハビリ特化型デイサービス施設を展開していたり、将来、要介護状態にならないための予防的なプログラムを提供したりする企業も出てきました。そう考えると、フィットネス施設市場は、介護の隣接領域であるということで、今後はますます存在感を高めていくことは必然であるように思えます。
また、地球温暖化が間接的にもたらす影響というのも無視できません。小学生のお子様をお持ちの方であれば共感いただける方も多いのではないかと思いますが、近年の小学校における水泳授業は親世代の頃とは全く異なったものになっていないでしょうか?屋外にプールを設置している小学校では、真夏の酷暑は熱中症のリスクも高いですし、加えて、教員の過重な労働環境への配慮ということもあってか、夏休みの水泳授業などもほぼ行われていないのではないかと思います。私も小学生の子供がいますが、私の子供の小学校では、夏休みはもちろんのこと、1学期中も水泳授業は行われず、2学期に入ってから数回行っただけ、という状況でした。年に数回しか授業で使用されないプールの維持・更新費用の負担などを考えると、水泳の授業は屋内プールを併設した総合型フィットネスクラブに委託したほうが良いのではないかと考えるのは自然な流れだと思いますし、実際にそのような動きも広がってきています。安全面の確保が大前提であることは言うまでもありませんが、これはフィットネスクラブ側にとっても、コスト負担の重さから収益性が低くなりがちなプールという設備を有効活用し、しっかりとした収益基盤を確立することにつながる可能性があります。
そして、デジタルの活用というのも大きなキーワードです。もともとデジタル化があまり進んでいなかった業界ではありますが、トレーニング内容をスマートフォンのアプリを通して管理できたり、そこに食生活や睡眠のデータも紐づけたり、ということが可能になりました。これまでは、努力してもその成果が目に見えにくいことからなかなか継続できず、会員になってしばらくすると頻度が落ち、やがて退会してしまうというケースも多かったのではないかと思われますが、デジタルを上手く活用できているフィットネス施設では会員のモチベーションを維持して、実際に退会率が低下する傾向が確認できています。これは当然、経営の安定化につながってゆく話ですので大いに注目しています。
