自動車業界では、100年に一度と言われる地殻変動が進行中です。今回はボディに焦点を当ててお話しします。
まず、自動車業界の大きな変化の一つとして挙げられるのがEV(電気自動車)の登場です。EVはバッテリーが非常に重いため、車体全体の軽量化が大きなテーマになっています。そのため、よく使用されてきた鋼材よりも軽い、アルミニウムを活用する方向性です。アルミよりさらに軽い素材として、マグネシウムが一つの候補ですが、リサイクルの難しさに加え、新地金供給の大部分を中国が占めている点が懸念事項です。
もう一つの大変革は、テスラがもたらしたギガキャストです。ギガキャストとは、車体を超大型鋳造機でひとかたまりの部品として生産する方式です。今まで常識だった溶接・ボルト留めが不要となり、ボディ剛性や生産効率が向上するメリットがあるため、世界中の自動車メーカーが注目しています。
その一方でデメリットもあります。アルミ材を使用していますが、巨大で複雑な鋳物であるため、パーツごとに加工して組み立てる従来のオールアルミボディ車と違って、加工硬化による剛性(金属加工で力を加えると素材の強度が上昇します)が得られず、薄く作りにくいそうです。そのため、軽量化を期待してアルミニウムを使っても、思うほど効果が得られていないようです。
また、その一体不可分で厚みのあるボディ構造が鈑金修理を困難にしています。加えて、アルミ材は熱影響に敏感であるため、修理には専用工場や高度な技術が必要です。この結果、修理が不可能、あるいは非常に高額となり、僅かなダメージでも全損扱いにされるケースが報告されています。この影響でテスラ車との契約を拒否する保険会社すら出現しています。
もちろん、自動車業界はこのような課題をただ傍観しているわけではなく、リペアビリティ(修理可能性)の解決に向けて取り組みを進めています。矢面に立つテスラはボディ修理の研究開発投資を続けており、最近では修理の選択肢が出てきたとのことです。例えば、亀裂が50mm以下なら溶接補修が可能な場合があるようです。一方で、完全一体成型ではなく複数に分けて生産する「いいとこどり」のアプローチを採用する企業も出てきており、修理問題は改善の兆しが見られます。