リペアビリティで進展がある一方で、肝心の修理人材の不足は依然として深刻な状況です。
従来型の車でも、ドアなどの脱着可能なパーツの修理はすでにAssy交換(まるごと交換)が主流になっており、鈑金・塗装技術の習熟に長い年月がかかるにもかかわらず、若い世代の技術研鑽の機会が減少しているようです。また、職人の高齢化が進行しており(*1 )、若い世代の流入が少ないことも問題です。さらには、現行車種で主流のハイテン鋼(通常の鋼より高強度で、薄くて軽い)の修理さえ難しいとされているところに、同様に高度な技術を要するアルミなどの素材が増えていく可能性があります。「車を直そう!その1」(*2)で述べたように、高度な安全装置の普及により、修理を手掛けにくい車が増加していくことも留意しておきたいポイントです。
これらの影響により、ボディ修理はやはり困難なままとなり、実質的に買い替えが唯一の選択肢になる恐れがあります。そのため、鈑金・塗装工場の再編や、職人技を再現できるファイバーレーザー溶接機(初心者でも扱いやすく、細いレーザーによる精緻な仕上がりや熱影響の少なさ、高速自動溶接が特徴)のような高額な機械の導入が求められる局面が増えると考えられます。
ここまでアルミを前提にお話を進めてきましたが、某アルミ関連企業の元研究者から、「日本の製鉄会社のハイテン鋼の技術が極めて高い水準にあり、自動車ボディのアルミ化は現実問題として難しいだろう」との見解を伺いました。製鉄技術のさらなる進化によって、アルミボディ、ひいてはギガキャストの普及が限定的になるシナリオには注意を払う必要があります。
以上のように、自動車業界の技術革新が進む一方で、修理の課題は今なお大きなテーマです。これからは、ボディの進化とアフターサービスの両輪でサステナビリティの実現が求められています。
【注釈】
*1 厚生労働省 職業情報提供サイトjobtag 「自動車板金塗装」 労働条件の特徴
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/558
*2 コモンズ投信 ザ・2020ビジョン 2023年12月月次レポート p6「車を直そう!その1 『修理する権利に要注意!』」
https://www.commons30.jp/pdf/fund2020/2020pdf_2023_12.pdf