――ところで昨今、日本の株式市場、日本企業が世界の投資家から再評価されつつあります。ブラックロックではどのように見ていますか。

資産運用立国の実現に向けた近年の政府や金融業界のさまざまな取り組みを、心強く感じています。金融庁にも、今年、資産運用課が新設されるということで、銀行、証券、保険と同じステータスで資産運用業が並ぶことになり、非常に喜んでいます。

またスチュワードシップやコーポレートガバナンスといった改革もこの10年で着実に前進していました。現在は、エンゲージメントが重視され、運用会社との対話に積極的な企業経営者の姿勢も高く評価したいと思います。

こうした動きは、運用会社を通じた直接金融のパワーだと思います。エンゲージメントのようなことは、かつて間接金融が主役だった時代にも、資金の貸し手である銀行と借り手である企業との間で行われていました。それは、取引先同士の1対1の会話でしたが、現在では直接金融、投資家の意見を、運用会社がエンゲージメントと称して発行体に伝え、いろいろと議論をしているんですね。コーポレートガバナンスやダイバーシティ、脱炭素に代表される環境対応など、そうした問題が活発に議論されることで、企業が活性化されます。こうしたことは企業に変革を促し、人材の流動化につながり、人材流動化によって産業の変遷がスムーズにいくというパワーがあると思います。

――アセットマネジメントの力で日本は再生できる可能性があると。

アセットマネジメントもその一翼を担うということだと思います。引き続き銀行を通じた間接金融は金融の大きな柱です。しかし、それに加えて運用会社を通じた直線金融の重要性が増してくる、と考えています。

それを実現していくための課題としては、日本の場合、資本市場のさらなる発展の余地があると思います。近年の一連の改革によって、運用者の受託者責任とか、販売会社の顧客本位の業務運営など、受益者の利害に直結しやすい商品や運用・販売態勢の問題は対処されてきて、インベストメント・チェーンの高度化は進んでいると思います。

その半面、肝心のマーケットが厚みがないままで放置されています。株式市場では上場企業のみならず、未上場企業への投資機会が広がっていくべきでしょう。また債券市場も、これまでは日本国債が中心でしたが、社債や資産担保証券であったり、あるいはプライベートデットなど多様な投資対象資産で市場全体に厚みが出てくれば、もっと投資家が増えると思います。こうした動きはバランスシートの流動化にもつながり、企業や産業にとってさまざまな変化への対応が早くなります。

――有田社長は、金融庁が旗振り役となって昨年発足した、「資産運用フォーラム」で共同議長に就いています。今後、一般社団法人化していく動きもある中、資産運用フォーラムへの期待はどうでしょうか。

岸田前首相が旗振り役となって設立されたもので、国内外の運用会社が一体となって資産運用立国に向けた施策を考えていきましょうというフォーラムです。私は、外資系運用会社の代表として共同議長を務めていますが、先ほどのキャピタルマーケットの充実といったことを話し合いたいと思っています。フォーラムにはオルタナティブ投資やサステナブルファイナンスといった分科会もあり、資産運用業が発展する大きな役割を果たしてくれるのではないでしょうか。

――最後に、個人投資家の方に向けてのメッセージをお聞きしたいと思います。個人投資家向けの政府の取り組みとしては、なんといってもNISAが挙げられますが、どのように見ていますか。

NISAはぜひやっていただきたいと思います。世界的に見ても、素晴らしい制度であることは間違いありません。投資上限枠1800万円というのは、国民1人当たりの金融資産よりも大きな額です。その金額分の投資の利益を無税にするというのは、政府の英断といえるでしょう。

株式や債券(プライベートマーケットを含む)といった金融資産に投資することで、経済成長の「シェア」を保有することができます。そうすることで経済成長や物価上昇率に見合った老後の安定資金を確保できます。金融教育をさらに推進し、国民の皆様が長期・分散・積立の投資を通じて、将来の安心を確保するとともに、そうした資金が成熟した資本市場を通じて日本の新たな産業創造につながることを期待しています。

――ありがとうございました。

 

ブラックロック・ジャパン代表取締役社長CEO 有田浩之氏

 

ありた・ひろゆき/1963年、広島県生まれ。87年に日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。91年からスイス興銀、92年、本店国際資金部、96年からはニューヨークに駐在。99年に米ブラックロックへ転職。2001年に帰国し、ブラックロックの日本事業を統括。07年より現職。現在、政府の「資産運用フォーラム」の共同議長を務める。