夫婦関係は終わってしまい
結局、かすみと達之は離婚した。貯金を使い込んだことが原因ではない。
もとから粉々に砕け散っていてもおかしくないのに奇妙にかたちを保ってしまっていた夫婦関係が崩れ去る、最後の一押しになっただけにすぎない。
あれからもう、〈ペガサス〉にも行っていない。
ふと流星に会いたいと思うことがないわけではなかったが、今はそれよりも大切な生きがいがあった。
「お母さん、ミルクは3時間ごと。飲んだらちゃんとげっぷね。あと、おむつはベッドの下にあるから」
「はいはい。そう何度も言わなくったって分かってるわよ。誰があんたのこと育てたと思ってんの」
ベッドの上にいた唯菜の娘――つまりはかすみの初孫である絵瑠を抱き上げる。絵瑠はきゃっきゃと声をあげながら、かすみの顔を見てかすかに笑う。
「それじゃあすいません、お義母さん。よろしくお願いします」
「いいのいいの。久しぶりの夫婦の時間、楽しんできて」
頭を下げる慎吾に言って、出発する2人を見送る。
母としての役目を終え、搾取されてばかりだった妻の役目を捨てた。残された女としての喜びを、かすみはホストクラブというまやかしに求め、そしてすべてを失った。だが祖母という新しい役目も悪くないと思う。
かすみの腕のなかで、まだミルクの香りがする赤ん坊がきゃっきゃと笑う。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。