<前編のあらすじ>
かすみは娘・唯菜の結婚式に参列していた。新郎新婦の新たな門出を祝う彼女だが、胸には相反する感情がうごめいていた。理由は隣に座る夫の達之である。
唯菜が生まれて早々に、達之の浮気が判明。怒りに震えたかすみだが、妊娠して早々に職を辞していた。娘の生活も考え離婚は踏みとどまった彼女は以来家庭内別居のような生活を続けていた。
素知らぬ顔で娘の門出を祝う夫の顔に憎らしさを感じてはいるものの、我慢し続けて25年。「今更どうでもいい」そんな思いも抱いてた。
しかしである。そんなかすみを変える出来事が起こる。結婚式後友人同士アフタヌーンティーに興じていると、その一人である莉子がかすみにこう切り出した。
「今度一緒にホスト行きましょうよ」
思わぬ申し出にたじろぐ、かすみだが「1回だけ」と言い聞かせ、ホストクラブに向かうのだが。
前編:25年前の夫の不貞がいまだに憎い…愛娘が結婚し、夫との生活だけが残った女性に訪れた「甘い転機」
やってきたホスト、その名は流星
かすみは夜の繁華街を歩く。けばけばしいライトが灯る明るい夜のあちこちでは、着飾った男女の姿を見て取ることができる。
50代、ごく普通の主婦である自分なんて場違いだということは考えるまでもない。
それでも、一張羅のワンピースにウールのコートを羽織ったかすみの足取りに迷いはなく、〈クラブ・ペガサス〉へと入っていく。
雑居ビルの一階に構えられた店は、この夜のなかでともる、どんな明かりよりも強く気高く輝いて見える。
店に入り、ボーイに案内されて紫のベロアのソファの上に腰を下ろす。待っていると、すぐに流星がやってくる。
「かすみさん、こんばんは」
隣に腰を下ろした流星は、かすみにいい香りのするおしぼりを手渡す。その瞬間、手と手が触れあって、照れたかすみは真っ直ぐに向けられる流星の目から思わず視線を逸らしてうつむく。
ひと月前、かすみは莉子に誘われて初めて〈ペガサス〉に訪れ、流星と知り合った。