はたしてインフレは収まるのか
さて、冒頭お話ししたトランプ氏の「掘って掘って掘りまくれ」という発言の影響についても見ていきたいと思います。
米国の原油先物相場(WTI)は発言を受け1バレル70ドル前半にかけて下落しました。つまり「今後アメリカで原油の供給量が増えるのではないか」という思惑があったということです。
トランプ氏は原油の価格下落をインフレ抑制の鍵にしようとしている節がある。ですが、WTIが下落すれば米国のインフレが落ち着くのだ、という考えについては私は2つの観点から懐疑的です。
まず一つ目。アメリカの消費者物価においてエネルギーが占める比率は6.4%しかありません。エネルギー価格を一生懸命下げたところで、どれほどインフレを抑制する効果があるのか。
もちろん、自動車社会である米国でガソリン代が下がれば、物流コストが下がる、ホリデーシーズンに車で遠出をする方が増え、行く先々で消費をする。こういった動きも出てくるでしょう。
波及効果は確かに大きいと思います。ただ、やはり消費者物価全体に占めるエネルギーの割合は高くない。
私自身は米国のインフレを見るうえでは消費者物価の27%を占める「帰属家賃」が重要だと考えています。帰属家賃のような住宅関連の動きの方が米国のインフレに与える影響はよほど大きいでしょう。
ですから、私はガソリン代が下がったとて、住宅市況が堅調に推移しているのであれば、米国のインフレはそれほど簡単には収まらないのではないか。そう言えると思っています。
疑問の二つ目です。石油を掘って掘って掘りまくり相場が下がると、採算ラインを割る可能性があります。そうなれば、米国のシェール企業にとっての石油を掘るインセンティブがなくなってしまうかもしれない。
米国のシェール企業の採算ラインは1バレル80ドル以上と言われます。これを割ってしまえば掘ってもあまり利益が出ない。そうなれば、掘って掘って掘りまくることにはならないでしょう。
やはりエネルギー供給が増えて米国のインフレが収まるかについてはクエスチョンマークが残ります。