日本企業による米国企業買収劇―バブル期のある“既視感”

以前アメリカに住んでいた時、「アメリカは鉄の国、日本は紙の国」という印象を持ったことがある。一時帰国から戻る際のANAの機内は和紙を思わせる繊細なデザインで、JFK(ジョン・ F・ ケネディ国際空港)からニューヨークの自宅に戻る途中、車窓から見た高速道路や鉄骨の橋梁といった、武骨だが力強い鉄のインフラを見てそう感じたのだ。

さて現在、日本製鉄がUSスチールを買収しようとして、バイデン大統領(当時)によって阻止された一連の動きは興味深い。このニュースを最初に見たとき、アメリカの鉄鋼業に日本企業が買収を仕掛けることに対する心理的な抵抗は、1989年に三菱地所がロックフェラー・センターを買収した際にアメリカ国内で生じた反発と似ているのではないかと思った。しかし一連の動きを追う中で、これはそれ以上に複雑な構造を持つ問題だと感じている。