日本製鉄会長の記者会見ににじむ問題の“本質”

日本製鉄の橋本英二会長が先日の記者会見で行った説明は説得力があり、この事案の本質を捉えているように思えた。記者会見の内容を基に、会長の主張を私なりに整理すると次のようになる。

1.USスチールの現状:業績不振により再建の必要がある。

2.日本製鉄の技術力:日本製鉄の高い技術を導入すれば、現在USスチールでは製造が難しい高級鋼が作れるようになる。これにより、米国の鉄鋼業の競争力が高まる。

3.国家安全保障への貢献:日本製鉄の技術は、米国のインフラ整備や防衛産業にも役立つ可能性がある。

4.反対勢力の存在:日本製鉄の米国参入は、競合するクリーブランド・クリフス社にとって脅威となる。このため、クリーブランド・クリフス社と全米鉄鋼労働組合(USW)の会長が連携し、組合の強大な政治力を使って大統領に買収阻止を働きかけた。

5.阻止の理由の本質:表面上は「安全保障上の懸念」が理由だが、実際には競争環境の変化に対する抵抗が背景にある。

この一連の動きをまとめると、今回の買収は経済的には米国とその鉄鋼業全体にメリットをもたらす可能性が高い。しかし、競合する企業や労働組合など一部の利害関係者にとっては、厳しい状況を招く可能性があるため、これを回避する目的で政治的に阻止されたという構図が浮かび上がる。

資本主義においては、競争を通じた「創造的破壊」が経済発展を促す。敗者を生む過程も含めて、それを受け入れる仕組みが本来の資本主義の姿だ。しかし今回のような保護主義的な動きは、それとは対極にある。これが「資本主義の国」として知られるアメリカで起きたという点が興味深い。