<前編のあらすじ>
中堅の医療機器メーカーで日々仕事に邁進する里沙だったが、ある日出版社で勤める夫の徹が働けなくなってしまう。
働いていれば辛いこともある。そんな思いを抱く里沙には徹がどこか甘えているように見えていた。「いい加減にしろ」働かず無精ひげまで蓄えるようになった徹についに里沙は声を荒げてしまう。
その言葉に奮起するかと思いきや、親に𠮟られた子供のように泣きじゃくりだす徹。変わり果ててしまった夫の姿に里沙は呆然とするのだった。
●前編:「謝罪botかよ」年始から突如働けなくなった夫にバリキャリ妻が辛辣な言葉を投げかけたワケ
会社に届いた手紙
夫がソファの上で号泣した次の日も、里沙はいつも通り、朝から病院を訪問してまわった。勉強会に参加した甲斐もあり、新製品のセールスにも問題はない。医師に専門的なことを聞かれてもすらすら答えられたし、前任者から引き継いで間もない病院とも信頼関係を築けている自信がある。
しかし、仕事に没頭しながらも、ふとした瞬間に夫の泣き顔が浮かんだ。あれは、里沙が泣かせたようなものだ。とはいえ、自分が間違ったことを言ったとは思えない。
そんなことを考えつつ訪問先の病院からオフィスへ戻ると、空気がいつもと違うのに気が付いた。みんな妙にソワソワして、全体的に落ち着きがない。
「何かあったの?」
里沙は隣のデスクで仕事をしている同僚の玉木に声をかけた。玉木は妊娠中で、今月末には産休に入る。里沙と同じ営業職だが、妊娠中ということで外回りはしておらず、ずっとオフィスで仕事をしている。里沙がいない間になにがあったのか知っているはずだった。
「うん、ちょっとね…」
ここでは話しにくいからと、オフィスに併設されているカフェスペースに移動した。この時間帯、社員はほとんどいない。
カフェでコーヒーを飲みながら、玉木がそっと教えてくれた。
「実は、榎本さんがパワハラで訴えられたの」
「えっ、パワハラ!」
「ちょっと、声が大きい!」
「ごめんごめん。で、誰に?」
「榎本さんのチームに新卒の若い女の子がいたでしょ。あの子が『パワハラされた』って弁護士に相談して、今日その弁護士から本社に手紙が届いたんだって」