年収は何があっても譲れない
デートを終えて数日後、美弥子は結婚相談所を訪れた。谷本についての感想を報告するためだ。
「どうでしたか?」
城田に聞かれて美弥子は正直な気持ちを伝えた。
「素敵な人だとは思います。しかしお付き合いや結婚は考えられません」
「どうしてですか……?」
「やっぱり年収ですね。他にも前の奥さんとの間に子供が居るから養育費を払っているとも言っていたので。この条件の男性とは結婚できません」
それから城田は谷本からはとても良い感触を得ていることを伝えたり、若いときの子供なので養育費はあと数年で支払義務がなくなることなどを説明してきた。
だが、美弥子はぶれない。
年収は何があっても譲ることのできない条件だった。
しかしそれから1週間後、美弥子は再び谷本とデートをしていた。
もちろん城田の勢いに負けたわけでもないし、条件を下げたわけでもない。デート後も続いていた谷本の誠実な連絡に応えるには、こうするのが1番だと思ったのだ。
この日は軽く昼食を取り、近くの自然公園を歩く。芝生の上では子どもたちがボール遊びをしていて、少し離れたところでは若いカップルがバトミントンをしている。芝の広場をぐるりと囲む舗装された道を、老夫婦が手をつなぎながら散歩している。
「……美弥子さん、僕は真剣にあなたとのことを考えています。美弥子さんは僕のこと、どう思っていらっしゃいますか?」
ふいに立ち止まった谷本は真面目な顔でこちらを見つめていた。美弥子も立ち止まり、谷本に向かい合った。まだ出会って2回目のデートだが、彼らしい誠実な告白なのだろうと思った。だからこうして、きちんと会って伝えなければいけなかった。
「ごめんなさい。あなたとは結婚をすることはできません」
「……ど、どうしてですか?」
美弥子は真っ直ぐに谷本を見据えた。
「あなたの年収では将来が不安だからです」
●正直な思いを伝えたものの、誠実な谷本に脈有りだと誤解させてしまったかもしれない。罪悪感を覚えた美弥子を谷本が引き留める。「もう少しだけお話をしたいんです」そう告げる谷本に美弥子が語ったのは金に翻弄された悲しい過去だった。後編【「愛では飯は食えない」婚活に邁進するアラフィフ女性が年収600万円以上は絶対に譲れないと感じる「悲しいワケ」】にて詳しく紹介します。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。