年齢より、いくらか若く見える男性が
お互いの希望が合致すれば、担当の職員から男側に連絡先が渡される。そして男側が最初に電話をして、初めて接触できるという仕組みになっていた。
40代にもなれば、電話を繰り返して距離を縮めるなどというまどろっこしいことはしない。初めて電話で手短に会う約束を取り付けた美弥子は、12月の中頃、昼間に待ち合わせの喫茶店に向かった。
到着したのは待ち合わせ時間の10分前。だが、すでに谷本は席に座って待っていた。
「谷本さんですか? 初めまして、笠原美弥子です」
美弥子が声をかけると、谷本はぎこちのない笑顔を浮かべた。
「あ、初めまして。谷本孝です」
谷本は44歳だと聞いていたが、写真よりもいくらか若く見える。服装も無難に小ぎれいで、第一印象としては悪くない。
予定している美術館に向かう前に、コーヒーを飲んでひと息つく。
美弥子は結婚相談所を介して男性と知り合うのが初めてだった。もちろん偶然に任せた出会いと違い、ある程度お互いを知っているところからスタートするので、会話はいきなり深いところからすることができる。これは結婚まで短時間で辿り着きたいと思っている美弥子にはありがたいものだった。
「美弥子さんは不動産会社にお勤めなんですよね?」
「そうです。これは事前にお伝えされていると思いますが、結婚しても仕事は続けようと思っています」
「はい、私も共働きを希望しています。お仕事を続けたいというお気持ちは素晴らしいと思います。収入の面だけでなく、家以外のコミュニティに所属しているというのが、人生において大事なんじゃないかと思ってるんです」
会話は美弥子が想定していたよりも盛り上がった。思い描いている将来のビジョンや価値観が似ていたことが理由だった。
喫茶店で打ち解けつつあったこともあり、美術館で一緒に歩いているときも、谷本はスマートな会話で美弥子をリードしてくれた。久しぶりのデートだった美弥子にとって、谷本の気遣いはとても嬉しいものだった。谷本はとても素敵な人だというのは1度会っただけでも十分に理解できた。
だがそれでも、美弥子のなかでは彼の年収が引っ掛かっていた。