夫とは似ても似つかぬ義理の姉

その後、洋史の家族から告げられた結論は容赦がなかった。彼の銀行口座、不動産、さらには小さな貴金属に至るまで、すべての資産を自分たちで管理するというものだったのだ。

内縁の妻である夏海には、何も残らないという現実が突きつけられた。

「夏海さん、これで納得していただけるわよね?」

洋史とは似ても似つかない高圧的な姉の言葉に、夏海は言葉を失った。

これまでの洋史との日々が、すべて否定されたように感じたからだ。介護に追われる生活の中で、遺言書の準備や法的な手続きを考える余裕はなかった。そもそも相続に関する話さえ、する機会がなかったのだ。

職場恋愛禁止のルールに従い、派遣社員を辞めた夏海は、洋史の介護と生活を支えるために近所のスーパーでパートをしていた。

もともと正社員として働いていた洋史は、同年代と比較しても十分な収入を得ていたため、彼の貯蓄や各給付金によって入院や介護の費用を賄うことは可能だった。
ただ夏海は、それを良しとしなかった。

病気になった洋史に依存することに抵抗があったし、何より将来のために少しでもお金を残しておきたいという考えがあったからだ。

もちろん将来と言っても、夏海自身の、洋史がいなくなったあとの将来のためではない。

万に一つでも、洋史が生きている間に効果的な治療法が発見された場合に備えてのことだ。新しい技術を使った先進医療を受けるには、高額な治療費が必要になる。望みが薄いのは分かっていたが、それでも可能性を残しておきたいと思わずにはいられなかった。

自分の生活を切り詰めて、洋史の資産を守ってきたのは、偏に彼と生きる未来のためだったのだ。

夜、自宅のリビングで1人座っていると、自然と涙があふれてきた。
思い出すのは、食卓の向こう側に座っていた洋史の姿。

「洋史、どうして…どうして、こんなことになったの……?」

問いかけても答えは返ってこない。

途方に暮れた夏海は、ほとんど眠れない夜を過ごした。