「オルタナティブ投資 発展の歴史」と題し、全10回にわたって解説していきます(下図)。第7回はプライベートエクイティの発展について、前後編の2回に分けて取り上げます。
プライベートエクイティ(PE)投資とは未公開企業への投資を指し、投資先企業のライフサイクルによって戦略が異なります。
下のイメージ図をご覧ください。横軸が時間、縦軸が企業価値です。主な戦略としてはベンチャー(VC)投資やバイアウトがあります。一般的に、ベンチャー企業への投資は投資期間が長く、バイアウトではエグジットまでの時間が短い傾向にあります。出資比率についても、ベンチャー投資は破綻リスクが大きく、多くの企業へ分散投資を行うため一社当たりの出資比率が低くなる一方、バイアウトは一社当たりの出資比率を高めることでハンズオンを実行します。さらに、経営再建を担うディストレスも主要な戦略のひとつです。
その他の戦略としては、メザニン投資やセカンダリー投資、ファンド・オブ・ファンズ(FoFs)経由の投資手法などもあります。
下図は1940年代からのNYダウ平均株価推移と米国におけるPE投資の変遷をまとめたものです。
VC誕生前の1930年代、英国では小企業に対する民間からの資金提供不足が指摘されたマクレガンレポートが出され、米国ではごく一部の超富裕層がエンジェル資金の提供を行っていました。
1946年になると最初のベンチャー投資企業であるアメリカ研究開発法人(ARD)が登場します。これからの経済を支える中小企業へのリスクマネー提供に懸念を持つボストン連銀総裁の提案で、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授らが共同でボストンに設立したものです。MITの技術をビジネス化する意図もあったようです。
その後、キャピタルゲイン課税の段階的緩和、ERISA法の投資規程解釈の変更を経て、機関化が進むことになります。1980年にはAT&T企業年金、1990年には公的年金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)がPE投資を開始します。さらに1990年代の規制緩和によって、幅広い投資家層への拡大していきました。
そしてPEの歴史は、幾度かのブームとバーストによって進化・発展を遂げています。
前夜として、1960~70年代、シリコンバレーを中心としたベンチャー投資=テック企業の盛り上がりを見せた時期がありました。しかし、70年代後半の株式市場下落によって、VC投資は低迷してしまいました。
その後迎えた第1次ブームは1980年代、ジャンクボンド市場発展による資金調達でレバレッジバイアウト(LBO)が拡大した時期です。このタイミングで長期・大型の資金を有する機関投資家が市場拡大を加速させました。しかし、ジャンボンド市場をリードしてきたドレクセルバーナムの破綻でジャンクボンド市場が崩壊、第1ブームの終焉を迎えてしまいました。この時の教訓として、投資家はレバレッジ活用に慎重になりました。
第2次ブームは1990年代で、投資銀行の支援を背景にアマゾンやヤフーといった企業へのベンチャー投資が活況となりました。欧州市場にも拡大しましたが、ドットコムバブル崩壊によりVC投資ブームは終わり、価値の低下した持分を売買するセカンダリーニーズが出てきました。また、投資に関してデューデリジェンス(DD)の強化やパートナーシップの契約に制約をかけるようになりました。
そして第3次ブームは2000年代、金利低下や貸付基準緩和などを背景に、トイザらスやハーツ等へのLBOが再拡大しました。そしてその波は欧州、APACにも広がるとともに、不動産やインフラへと多様化が進みます。さらに、PE会社やファンドの上場も行われました。
金融危機によって勢いは減速しましたが、その後もセカンダリーの拡大、PIPEやLBOデットといった取引の多様化など、案件発掘を担うジェネラルパートナー(GP)の付加価値追求が進展し、現在に至っています。
下図左は2000年からの投資戦略別の資産運用額推移です。案件1つあたりの規模が大きいバイアウト戦略が大きなシェアを占めていますが、成長率では他の戦略が上回っています。特に2017年以降はベンチャー投資が急拡大しています。
下図右は地域別に見たディール規模の推移です。2022年は金融引き締めによって大きく減少はしていますが、北米、欧州、アジアなどPE投資のグローバル化が進んでいるのが分かります。
PE市場規模拡大によって、大きく2つの変化が見られます。
下図左は、米国におけるベンチャー投資の平均ディール規模の推移です。2013年以降、規模の急激な上昇が見て取れます。
下図右は、米国おけるバイアウト取引のEBITDA購入価格倍率の推移です。購入価格倍率の上昇が生じているのが分かります。
そして、次のPE投資の進化として共同投資や直接投資があります。通常は下図左上のようにファンドを経由して投資先企業への投資が行われますが、下図中央のようにGPが投資家に向けて共同投資の機会を提供するケースがあり、大手機関投資家は高いリターンを求めて活用することができます。またソブリンウェルスファンド(SWF)など専門性を高めた投資家は、下図右下のようにGPを介さず、単独投資を進めるケースも出てきています。
2009年以降、共同投資や単独投資といった直接投資が増えています。これはGPから見れば付加価値の提供を意味し、投資家にとってはGPとのパートナーシップ強化の意味合いがあります。
セカンダリー市場にも変化が見られます。セカンダリーファンドは1982年に誕生し、その後は取引の内容が発展してきました。
セカンダリー取引の規模の推移を示したのが下図左です。青色がリミテッドパートナー(LP)主導取引、オレンジ色がGP主導取引となっています。当初はLPの売却ニーズをマッチングする場としてのパッシブなセカンダリー市場が主流でしたが、徐々にGPが主導するセカンダリー取引が増加しています。GPも投資家からの売却ニーズに応えることに加え、自らのポートフォリオのリバランスや後継ファンドへの案件移管などGPとしての付加価値を追求するために、セカンダリー取引を活用するようになってきています。
下図右は2022年における対象別のセカンダリー取引金額シェアです。92%がPEですが、インフラや不動産にも広がってきています。