強情な娘に思わず鋭くなってしまう言葉
きっと自分を正しいと信じて疑わない高圧的な態度が、周りとの不和を生むのだろう。
正しいことを真っすぐに伝えられると、時に人は逃げ場がなくなって苦しくなる。そしてその苦しみから逃れるために、つい感情的になったり、反発したくなったりするものなのだが、そのことを10歳になったばかりの娘に伝えるのは難しかった。
葵は確かに間違ってはいない。だがもう少しオブラートに包んで相手に伝えられるようになれば、生きやすくなるだろうに。
「葵、たまには心に余裕をもって、相手を許してあげることも必要なんだよ。この社会だって、全部が全部、きっちり正しくできてるわけじゃないんだから」
「でも、それってズルを許すことじゃない? さぼってる人を許すなら、頑張って掃除をしてる人がかわいそうだよ」
葵の視線は険しく、態度はかたくなだった。ここまで強情だと、美花も少しずついら立ってくる。
「……そうかもしれないけど。でもね、人に厳しくし過ぎて、今回みたいに手を出して泣かせちゃったりしたら、葵が悪者になっちゃうんだよ? それでもいいの?」
思わず鋭くなった言葉に、葵は不満そうに口を閉ざした。言い返す言葉を探しているようだったが、結局何も言わずに目をそらした。
どうやら「悪者」という言葉が、正義感の強い葵には深く刺さったらしい。美花は別に、葵のことを非難したいわけではなかった。ただ分かってほしいだけなのに、それだけの願いがどうしても伝わらない。
沸騰した鍋が、うまくいかない美花をあざ笑うように音を立てた。