相続した2000万の預貯金は底をついていた

父の死後も母は実家のマンションに住み、相変わらず、遊び仲間と旅行や観劇に出かけたり、習い事に通ったりして充実した毎日を送っているようでした。

しかし、半年ほど前、弟から「母のことで話がある」と連絡が入ったのです。弟とは昨年の正月から会っていなかったので、以前家族でよく利用した小料理屋で久しぶりに飲むことにしました。

その夜、弟が私に耳打ちしたのは、母の経済状態がのっぴきならない状況にあるということでした。

正直、全く寝耳に水でした。母は父がいなくても悠々自適の生活を送っているものとばかり思っていたからです。しかし、実際には自宅マンションの固定資産税や管理費も払えないほど追い詰められていたのでした。

聞けば、母が現在受給している年金は月額15万円程度しかないといいます。母はホステス時代に国民年金の保険料を払っていなかったらしく満額が受け取れないのと、父の死後は企業年金や個人年金が入ってこなくなり厚生年金の遺族年金だけとなったため、収入ががたっと落ちたようでした。

実家のマンションは大手不動産会社系で管理費が高く、修繕積立金と合わせて月額10万円近くかかります。それに税金や社会保険料を払ったら、ほとんど手元に残りません。母は父から2000万円近い預貯金も相続していましたが、それも日々の生活費の穴埋めでほとんどなくなってしまったとのことでした。

これには驚きました。「家、売るしかないかもな」。ふと頭に浮かんだ考えを口に出すと、弟が待ってましたとばかりにたたみかけてきました。「アニキもそう思うでしょ? うん、それしかないよね」。そして、ご都合主義そのもののシナリオをふっかけてきたのです。

「古いマンションだけど、今売れば7000万円くらいにはなるらしいよ。それを、お袋さんと、アニキと、俺で3等分するっていうのはどう?」

「それでお袋さんはどこに住むんだよ?」と突っ込むと、「アニキのところに決まってるじゃない。俺の家はうるさいガキが3人もいて、汚いから嫌だってさ」と悪びれずに言ってのけます。母も弟も、身内ながらいい気なものだと腹が立ちました。

しかし、窮地に陥った母を放っておくわけにはいかず、弟や、父が生前懇意にしていた弁護士さんも交え、母の今後について何度か話し合いをしました。