人事部長からの呼び出し
それから1カ月がたったころ、倫子たちがデスクワークを行っていると、いきなり松阪が営業部に入ってきた。
「橋本課長、ちょっとお話があります」
口を真一文字に結び、松阪は課長を名指しする。橋本を始め、営業部の人間は全員が動揺していた。なぜなら松阪は営業部ではなく、人事部の部長だからだ。その松阪が直々に足を運び、誰かを名指しで呼び出すなんてことはただ事ではない。
「……私ですか?」
「そうだ。話があるから、来なさい」
橋本は不満そうに唇をとがらせながらも、松阪に従って営業部を出ていく。
「……なにがあったんですかね?」
隣に座る男性社員が顔を少しだけ近づけて聞いてきた。
「さあ?」
私は知らないふりをした。
松阪を動かしたのは、実は倫子だった。倫子は日々、橋本から受けている屈辱的な仕打ちを松阪に報告した。
その結果、松阪は人事部を使って社内調査を行うと約束をしてくれたのだ。
結果は当然、黒。それどころか社内調査の結果、橋本は社員へのパワハラだけでなく、女性社員へのセクハラをしていたことも発覚し、厳正な処分が下されることになった。
降格処分となり、地方の支社への左遷。
倫子は生ぬるいとすら思ったが、橋本がいなくなって働きやすくなることに代わりはないので、松阪に感謝をして留飲を下げることにした。