倫子を奮い立たせた娘の言葉
どれだけ悩んでも答えが出ることはなく、ただ悪化していく日々を耐え忍ぶだけだった。
いくつもの将来のシミュレーションをしてみても、行き着く先は地獄だった。
「ねえ、お母さん」
真悠の声で倫子はわれに返った。
目の前には自分が作ったハンバーグが皿に盛られている。
「何か、悩み事でもあるの?」
「え、あ、ううん。そうじゃないの。ちょっと仕事のことでね」
クーラーを効かせているにも関わらず、額に汗をかいていた。
無理やり笑顔を作り、ハンバーグをほおばる。夕食時にまで、暗い未来を思い描いてしまっていた。
「……別に中学は公立でもいいんだからね」
「な、何を言ってるの……?」
「ちゃんとした大学に行ければ、問題ないわけでしょ? だったら、別に無理して中学から私立に行かなくても良いかなって。それに公立のほうが友達もいるし」
後半は本心でもあるだろう。しかし真悠は志望校の女子高のかわいいセーラー服が着たいと、4年生のときから塾に通って勉強を頑張ってきた。だからこれは倫子に心配をかけまいと気を使っているのだと、すぐに分かった。
「大丈夫。真悠は今まで通り、行きたい学校目指して頑張ったらいいの」
倫子は笑って気持ちを伝えた。それでも、真悠は眉根を下げる。
「別に私はお母さんと一緒にいられたら、何でもいいんだけどね」
「え……?」
真悠は当たり前のようにそうつぶやくとまた食事を始める。
驚きすぎて、倫子は真悠にそれ以上、真意を聞くことができなかった。
だが、真悠の言葉は、倫子を奮い立たせた。
あんなやつに負けたくない。素直にそう思った。