<前編のあらすじ>
倫子(42歳)は昨年夫と離婚した。毎月5万の養育費は振り込まれるものの、中学受験を控えている娘・真悠(12歳)との生活は決して楽なものではなかった。
それまで営業部のエースとして残業もいとわずバリキャリとして働いてきた倫子だったが、シングルマザーになったこともあり、残業や接待を避けるようになった。
この春から倫子の部署にやってきた課長はそれが気に入らず、あからさまな嫌みを言ったり、長年担当してきた案件を取り上げられたりと倫子に対するパワハラはエスカレートするばかりの毎日だった。
●前編:「残業を断っただけなのに」出産をしないほうが会社では有利? シンママが直面した「モンスター上司の理不尽な仕打ち」
今のままいても飼い殺しにされるだけだよ?
橋本からひどい扱いを受けるようになってから3カ月の時が過ぎていた。
その日、倫子は喫茶店で渚と待ち合わせをしていた。渚は元々同じ会社に勤めていたのだが、10年前に寿退社をしている。会社を辞めてからも渚との関係は続き、今もこうしてたまに時間を見つけては会って近況報告などをする仲だった。
離婚についても渚には相談をしていて、単なる同僚の域を越え、とても頼りになる友人だった。
「へえ、アイツ、課長になってそんな偉そうにしてんだ」
渚はコーヒーを飲みながら、顔をしかめる。働いていた当時、橋本と同じ部署にいたらしい。そして、渚は橋本のことをとにかく嫌っていた。
「そうだよ。私なんて、マジで良い標的にされてるんだから。おかげで仕事もなくなって、インセンティブがないぶん、給料もどんどん下がってるんだから」
「それ、文句言ったの?」
「1回言ったよ。そしたら、家庭が大事なんだから気を遣ってあげてるんだって言ってきてさ。そんなつもりなんて全くないくせに」
倫子は話をしながら、また怒りがぶり返してきた。
「ねえ、もうさ、アイツの下で結果を出すのって難しくない?」
渚の質問に倫子は苦々しい気持ちでうなずく。
「これから、また別の案件を自分でつかみ取ったとしても、どうせ、橋本は自分の権限で、他の社員に回すに決まってるよ。そうやって、自分の子飼いの社員を作って味方を増やすのがアイツのやり方だから。もう転職っていうのも、選択肢としてあるんじゃない?」
渚の意見はもっともだった。しかし、簡単にうなずくことはできない。
「……それは分かるけど、この年で転職なんて難しいよ。あったとしても、今の会社よりも条件は絶対に悪くなるだろうし。私には医療機器を売ったっていう経験はあるけど、それ以外には何もないからさ。医療機器の業界だって別に景気が良いわけじゃないし……」
自分で言っていて、惨めな気持ちになる。
「……でも、今のままいても、飼い殺しにされるだけだよ?」
「そうなんだよねぇ」
倫子は深いため息をついたが、解決策は見えなかった。