販売期間が限られた「限定追加型」を提案する理由

一方、広島銀行では単位型の債券ファンドの採用にも積極的だ。8月の店頭販売額ランキングのトップには「GSグローバル社債ターゲット2024-09(限定追加型)『愛称:ワンロード2024-09』」が、9月には「One円建て債券ファンド3 2024-11『愛称:円結び3 2024-11』」が第2位に入った。いずれも限定追加型の外国債券ファンドであり、設定後一定期間しか追加募集ができない。このような期間限定の商品をコツコツと取り扱っている理由について、広島銀行の新井氏は「『為替リスクを低減し、信託期間が決まっている』ことで投資信託での運用経験がないお客さまでも分かりやすい商品」と位置付けているという。投資未経験者に対して「『値動きがある商品を保有すること』に慣れていただく」という点では、5年間程度で債券の持ち切り運用を行うことで最終利回りが分かりやすい同ファンドは、理解が得られやすいということだ。

「ワンロード2024-09」を設定・運用するゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント投信営業部の内村巌氏は、同ファンドの設定の狙いについて「『ワンロード』シリーズは日本全体で1000兆円超の資金が現預金に停滞している状況から、いかに資産運用への第一歩を踏み出していただけるかを重点に考えて設定したファンド」と語る。広島銀行も取り扱った「限定追加型ワンロード」は2022年6月の初回ファンド設定から「2024-09」で5本目になる。また、5年間の持ち切り運用を4回繰り返すことで最長で20年間の運用ができる「追加型ワンロード」を新NISA対象商品として新規に立ち上げている。

「ワンロード2024-09」は、ポートフォリオの実質的な最終利回りは年1.30%程度、平均クーポンは4.75%、平均残存年数4.04年、平均格付けはBBBマイナス(2024年9月24日現在)になっている。為替をヘッジして円ベースで最終利回り年1.30%程度という水準は、たとえば、9月に募集された個人向け国債の固定5年(第162回)の利率(税引前)0.51%と比較すると魅力的な水準といえる。大口の投資家が安定的な収益を求める場合でも、運用利回りのイメージがつきやすい点でニーズが大きいだろう。

債券で値動きを体験し、株式、バランスファンドへステップアップしてほしい

広島銀行では、このような限定追加型の債券ファンドによって、「値動きのある商品」を経験してもらったうえで、「将来的には株式ファンド、バランス型ファンドへのステップアップを考えていただく」ということを意図している。預金から投資商品への移行を丁寧に進めているのだ。

国の政策として「資産運用立国」や「貯蓄から投資へ」を掲げ、新NISAという枠組みを用意したとはいえ、実際に顧客と向き合い、投資商品を説明、提案するのは銀行などの販売会社だ。投資の果実が大きい株式ファンドを最初に提案し、それが、もし8月上旬の20%安などのような急落に見舞われて含み損を抱えてしまえば、預金しかしていなかった人は、「銀行にだまされた」というような感情を持ってしまいかねない。将来の市場変動は誰にも予測できないものであるだけに、一歩ずつ歩みを進める姿勢が重要だろう。

値上がりの大きかった米国株式に偏った運用をしている投資家に分散投資を提案したり、投資初心者に限定追加型の債券ファンドを提案したりといった、バランスのある金融機関のアプローチは、その地域の金融資産を考えた時に、中長期的で安定的な成長につながるだろう。若い層を中心に、SNS等で情報を集めて株式インデックスファンドを使った積立投資を始めるというケースも増えているが、それができる人は一握りだろう。圧倒的大多数を占める「投資未経験層」に、どのようにして投資の第一歩を踏み出してもらうのか? 地方銀行をはじめとした投信取扱機関の挑戦は続いている。

執筆/ライター・記者 徳永 浩