大きな負債と言われて…
もうやけくそだと、2次会まできっちり楽しんで帰った真悠は、帰宅後すぐに慧祐に生活費の相談をすることに決めた。友達みんなが後押ししてくれたのもあって、アルコールが入っている今じゃないといけそうにない気がしたからだ。
「ねえ、生活費のことで、話があるんだけど」
着替えもそこそこに、真悠は慧祐に話しかける。投資に関する本を読んでいた慧佑は返事もせず、目線を本から動かそうとしない。
「あのさ、生活費、もっと上げてくれないかな。慧祐はなーんもしないから知らないだろうけど、最近は食材だって値段上がってるし、5年前と同じじゃ無理だよ」
「いつも行ってるスーパーを変えればいいだろ。最近はディスカウントスーパーも多くなってるし、そこに行けば、多少は安く手に入る。まずはそういう努力をしてから言ってくれ」
真悠は鋭い視線を慧佑に向ける。
「あるのは知ってる。でも遠いって。車で行くにしても、ガソリン代がかかるんだよ。知ってる? ガソリン代もずっと高騰してるって」
「その辺のことは真悠よりも俺のほうが詳しいよ。だったら自転車で行けばいい。運動不足解消にもなって、ちょうどいい」
「時間が掛かりすぎるでしょ。それだけで1日が終わっちゃうわ」
真悠の視線に対抗するように、慧佑は鼻で笑った。
「大げさな。そんなことはやってから言え。本当に1日がかりだったら、別の案を考えればいいだろ。ただでさえ、家にずっといるんだから、時間なんて腐るほどあるだろうに」
真悠のなかで、またそれかと、怒りが沸騰する。
「ねえ、いつまで私が仕事を辞めたことを根に持ってるの⁉ 2人で話し合って決めたことでしょ!」
慧佑は勢いよく本を閉じた。何かがちぎれたみたいな音だった。
「いいや違うね。真悠は勝手に仕事を辞めたんだ。俺は真悠と2人で力を合わせて、お金をためて、十分な資金を作ろうと思っていた。でも、真悠が辞めたせいで、その計画が全部狂ったんだ。真悠がいるだけで、こっちは大きな負債を背負ってるんだ。それなのに、まだ金をせびろうとしてくるなんてな! どれだけ厚かましいんだよ!」
「何それ。そんな言い方しなくても……」
「俺は将来を堅実に考えていけるパートナーを望んでたんだよ! 真悠のせいで何もかも台無しだけどな!」
真悠は涙を堪えて、慧佑をにらみ付ける。けれど慧祐の姿はみるみるうちににじんでいった。
「じゃあ……、じゃあなんで私と結婚なんてしたのよ⁉ 私が専業主婦になりたいんだって言った時点で、別れてくれれば良かったのに!」
真悠がそう怒鳴っても、慧佑は何も答えられなかった。もちろん真悠自身も、どうして慧祐と結婚しようとしたのか、もはや分からなくなっていた。
多少の思い違いや意識の差は、結婚前から確かにあった。でも、それでも、結婚したのには理由があったはずだ。しかし、お互いにその理由をもう忘れていた。
損得勘定を超えた何かが真悠たちをつなぎ留めていたはずだったけれど、もうそんなものはとっくに失くしてしまっていたんだと気づいた。