<前編のあらすじ>

真悠(33歳)は、ドケチ夫に頭を抱えていた。結婚して3年。思い描いていたものとは180度違う節約生活にもう限界だった。

夫の慧祐(37歳)は年収800万の商社マン。趣味はなく倹約家。付き合っている最中から将来に向けての資産形成に励んでいた。この人となら将来も安心だと結婚を決め、真悠は長年の夢だった専業主婦になった。

しかし慧祐の倹約生活は度を越していた。真悠が仕事をやめてしまったことを「信じられない」と言い、慧祐は月3万の生活費を渡してくるだけだった。友達とのランチに行くにも慧祐の許可を取らなければいけない生活がずっと続いていた。

親友の結婚式に出たいと言ったときに、ご祝儀、洋服、ヘアメイク代などをお願いしたことがきっかけで価値観の違いがあらわになり、真悠のストレスも限界でケンカになってしまう。

●前編:1週間の生活費が1000円…妻の親友の”結婚式の祝儀を渋る”ドケチ夫が「倹約をはじめた理由」

それ、マネハラだよ

結婚式当日、本当なら笑顔で楽しめるはずの日なのに、真悠の表情は浮かなかった。慧佑とはあれからずっとギクシャクしていたし、結局もらえたのだってご祝儀のぶんだけだった。だから真悠はタンスの奥にかけてあった古いドレスを引っ張りだし、髪の毛も自分でアレンジして整えるくらいのことしかできなかった。

本当だったらもっとおしゃれをして祝いの席にいるはずだった。きれいなドレスで晴れやかな表情を浮かべる友人の美佳を見ていると、うれしいはずなのに少しだけ惨めな気持ちになった。

テーブルには高校時代の友達が集まっており、懐かしい話に花が咲いた。全員で髪を真っ赤に染めて怒られた体育祭の話、真悠がとにかく目の敵にされていた数学教師の話など、とにかく話題が尽きなかった。

「あぁ、あの頃は楽しかったなぁ」

「なになに、真悠。今は楽しくないみたいな口ぶりじゃん」

「だって、うちの旦那、ありえないくらいケチでさ。生活費もギリギリしか渡してくれなくて、全然私が自由に使えるお金がないんだよ。今日だって、ドレスも新調できなかったし、美容室にだって行けなかったんだから」

「うわぁ、そんなのあり得ないんだけど。うちのがそんなん言ってきたら蹴り入れてやるわ」

隣の席の里香は笑いながら同調してくれる。やっぱ専業主婦なんてやめとけばよかったのに、と別の友達が肩をすくめていた。

「ほんとだよ。うちはママが専業主婦だったし、小さいころから憧れてたんだけど、こんなことなら辞めるんじゃなかったよ。仕事辞めたせいで、この異常な倹約生活始められたわけだし」

不満をぶちまけて、口直しがてらにシャンパンで唇を湿らせる。気が付くと、里香が真剣な顔で真悠のことを見ていた。

「ねえ、待って。普段さ、自分のためにどれくらいお金を使えてるの?」

「どれくらいも何も、ほとんどないよ。大体は生活費に消えてるから。私が使う分なんて全然。そもそもランチに行くのだって、いちいちお伺いたてないといけないもん。お前は神様かっつうの」

お祝いの場でふさわしい話じゃないことは分かっている。けれど久しぶりに飲んだアルコールの後押しもあいまって、真悠の愚痴は止まらなかった。

「どのくらいその生活が続いてるの?」

「もう5年かな。結婚してずっとだから」

真悠の話を聞いた里香は信じられないと首を横に振る。

「ねえ、それ異常だよ。専業主婦だって、家のこと全部やってるわけでしょ? それなのに、おかしすぎるでしょ」

「それは分かってるけど、うちの夫はケチだからさ……」

「ケチなんてレベルじゃないって。それ、マネハラだよ」

聞き慣れない言葉に真悠は首をかしげる。

「何それ?」

「マネーハラスメント。夫婦間とか職場間で、金銭的に嫌がらせをする行為よ。真悠の旦那が全然稼いでないっていうのなら、仕方ないと思うけど、そうじゃないんでしょ?」

真悠は首を横に振る。

「全然。しっかりと稼いでるよ。でも、使わないお金は全部、投資とか貯金に回してるって言ってるから。子育てとか老後のために使うって言って」

「真悠はそれで納得してるの? そのために、自分は全く自由に使えるお金がないって言われても、いいと思ってる?」

思ってるわけがない。それでけんかになったのだから。

「でしょ? だったら、ちゃんと話し合いをしたほうがいいよ。それ、下手したら今後もっと厳しくなる可能性だってあると思うよ」

里香の言葉に背筋が寒くなった。

これ以上厳しくなんてされたら、耐えられない。