「同意なき買収」は増えるのか

しかし、2023年8月に経済産業省が発表した「企業買収における行動指針」では、「敵対的買収」を「同意なき買収」との呼称に変えました。背景には、企業買収を活性化させて成長を促そうという意図があります。仮に買収する側とされる側の経営者が「敵対」していても、買収によって企業価値が向上する可能性があるなら真摯に対応すべきで、過度な買収防衛は控えなければならない、買収される側の経営者が「同意」しなくても、最終的に是非を判断するのは株主である、というわけです。

この「指針」に呼応するように、2023年7月にニデックがTAKISAWAに対して同意を得ないまま買収を提案。結局TAKISAWAの取締役会は同9月に同意し、友好的買収になりました。このように事前の同意がなくても、対象会社の取締役会が買収公表後に同意すれば、友好的買収としてスムースにいくようになるでしょう。

また同12月には、すでにエムスリー(医療関係者向けの専門サイトなどを運営する企業)との間で友好的買収に同意していたベネフィット・ワン(福利厚生・人事サービス)に対し、第一生命がより高い公開買付け価格での「同意なき買収」の意図を公表。結局、2024年2月には、第一生命がベネフィット・ワンを友好的に買収することになりました。今後は、こうした事業会社どうしの買収戦は増えていくかもしれません。

注視すべきは、対象会社の取締役会が「同意なきまま」で買い手が大手事業会社ではない場合です。今まで大手の証券会社、銀行、弁護士事務所等は、(買い手が大手事業会社などの既存の顧客ではないかぎり)敵対的買収者側には付きませんでした。実際、独立系のファンドが敵対的買収を行おうとしても、彼らの多くはアドバイザーになることを拒否してきました。「指針」がその行動をどう変化させるかは、今後の「同意なき買収」の増減にも影響を及ぼすでしょう。

また株主の変化にも期待したいところです。買収対象会社の政策保有株主のみならず、一部の国内の機関投資家は、これまで敵対的買収によって時価より高い価格で売却できる機会があっても無視してきました。そこに合理性がないことに、そろそろ気づいてもらいたいものです。

●第2回は【「本業はイマイチでも、不動産は安定しているから…」はNG。上場企業が不動産賃貸業に手を出してはいけないワケ】です。(10月10日に配信予定)

「モノ言う株主」の株式市場原論

 

著者名 丸木 強

発行元    中央公論新社

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