株主の利益を最大限に追及する「モノ言う株主」。

モノ言う株主たちによる敵対的買収がメディアを騒がせることもあり、「強欲」「カネの亡者」とネガティブな印象がつきまといます。一方で近年、モノ言う株主たちが主張してきた企業統治(ガバナンス)の透明性、PBR1倍割れ改善などが実現されてきています。

新NISAが始まり、多くの方が新たに個人投資家となりました。株主となった立場では、これまでのイメージが変わってくるかもしれません。今回は村上ファンド創業メンバーの一人である丸木強氏の著書『「モノ言う株主」の株式市場原論』からモノ言う株主の投資哲学を紹介します。(全4回の4回目)

●第3回:人気の「株主優待制度」だが…モノ言う株主から見れば「不純で、不公平」と懐疑的にならざるをえない2つの理由

※本稿は、丸木強著『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中央公論新社)の一部を抜粋・再編集したものです。本稿の情報は、書籍発売時点に基づいています。

「親子上場」を減らす三つの方法

1990年代以降、ソニーや松下電器(現・パナソニック)等の上場子会社が親会社との株式交換によって上場廃止となるなど、親子上場を解消する動きも一部では見られました。実は東証も親子上場を問題視し、2007年の時点で「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方について」という通知を出しています。その中で「子会社上場を禁止はしないが、望ましい資本政策とは言えない」として、審査を厳しくする旨を提示しました。

以降、親子上場の件数は減少に向かいます。東証の通知とは関係なく、経営判断された結果だと理解していますが、例えば日立製作所は2009年に22社あった上場子会社が、今やゼロになっています。

ところが2015年、東証は民営化した日本郵政の上場と同時に、その子会社であるゆうちょ銀行とかんぽ生命の上場を認めてしまいました。自ら時代の流れに逆行するような事例を作ってしまったわけです。

これがどの程度影響したのかはわかりませんが、その後、例えばソフトバンクグループの子会社のソフトバンクや、最近では楽天グループの子会社の楽天銀行などが上場を果たしています。東証としては、認めざるを得なくなったのでしょうか。あらためて親子上場を見直し、ルールを厳格化する必要があると思います。

東証は、2023年12月に「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」の議論をとりまとめ、情報開示の充実と独立社外取締役の在り方について公表しました。しかしこれは、親子上場の存在を前提としたもので、少々残念な内容でした。

私は、親子上場は原則として全廃すべきと考えています。そこに至るまでのプロセスを、大きく三つ提案したいと思います。

第一は、親子上場を認める条件として、親会社が子会社の上場後には、子会社株式の価値向上のために大株主としてコミットすると誓約してもらうことです。

親会社の株主にとっても、保有資産である子会社株式の価値向上は大いに望むところでしょう。しかし、「それなら100%保有しておくほうがよいのでは」と考え直してもらえれば、親子上場も減るでしょう。

第二に、関係が解消するまでの間、子会社の取締役会については、過半数を社外取締役にすること。資本の論理で言えば、50%以上の株を持っている者が取締役会を支配するのが当然です。つまり過半数は親会社から送り込まれるのが筋です。しかしそれでは、子会社の経営は完全に親会社に支配され、一般株主の意見はまったく反映されません。そこで親子上場にかぎっては、配慮する必要があると思います。

そういうルールを設定すると、親会社にとっては子会社を上場させるメリットがほぼ消えます。むしろコントロールできなくなるリスクもあるので、ならば上場を止めておこうという話になるかもしれません。それによって親子上場が減れば大成功でしょう。