そして第三に、親子上場にかぎったことではありませんが、やはり東証の上場審査をもう少し厳しくすることも大事だと思います。現状では内部統制ができているかとか、事業を健全に遂行しているかといった点が問われますが、それとともに増益基調であることも求められます。

ただこれには、資本コストの概念が抜け落ちています。例えばROEが3%でも5%でも上場は可能。日本企業の株主資本コストはだいたい8%なので、PBRが1倍を割ることは明らかです。そもそも、こういう企業は上場すべきではありません。そうではなく、やはり資本コスト以上のリターンが生まれていること、もしくは今は赤字だったとしても近い将来に高いリターンを見込めることを条件にすべきだと思います。

仮にこういう審査基準が導入されていれば、郵政グループの上場はなかったはずです。また親子上場を含め、一時的には新規の上場企業は減るかもしれません。それはそれで悪くないし、また厳しい基準をクリアした上場企業が増えれば、日本の株式市場ひいては経済全体の活性化にもつながるでしょう。

ところで2023年12月、日本製鉄は米国のUSスチールを約2兆円で買収すると発表しました。このM&Aがアメリカ当局に認められれば100%の株主となるようです。

しかし、これには疑問があります。日本製鉄には、国内に大阪製鐵、山陽特殊製鋼、日鉄ソリューションズなど、50%超の株式を保有している上場子会社があります。ではなぜ、USスチールも51%だけ買って上場子会社としないのでしょうか。それとも方針を変更し、今後は日本の上場子会社もすべて完全子会社化するのでしょうか。もし日米の対応を区別し、国内の上場子会社を維持するなら、それらの少数株主を軽視していると認識されても仕方がないと思います。

「モノ言う株主」の株式市場原論

 

著者名 丸木 強

発行元    中央公論新社

価格 924円(税込)