株主の利益を最大限に追及する「モノ言う株主」。
モノ言う株主たちによる敵対的買収がメディアを騒がせることもあり、「強欲」「カネの亡者」とネガティブな印象がつきまといます。一方で近年、モノ言う株主たちが主張してきた企業統治(ガバナンス)の透明性、PBR1倍割れ改善などが実現されてきています。
新NISAが始まり、多くの方が新たに個人投資家となりました。株主となった立場では、これまでのイメージが変わってくるかもしれません。今回は村上ファンド創業メンバーの一人である丸木強氏の著書『「モノ言う株主」の株式市場原論』からモノ言う株主の投資哲学を紹介します。(全4回の1回目)
※本稿は、丸木強著『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中央公論新社)の一部を抜粋・再編集したものです。本稿の情報は、書籍発売時点に基づいています。
日本の敵対的TOBはなぜ難しかったのか
振り返ってみれば、日本で初めて敵対的TOBを行ったのは、かつて私が創業メンバーだった村上ファンドでした。同ファンドにとってもほぼデビュー戦で、対象企業は不動産会社の昭栄(現・ヒューリック)、2000年のことです。
当時、同社の時価総額は50億円ほどでしたが、キヤノン株や多くの賃貸用不動産等を保有し、その資産総額は時価総額の何倍もありました。つまり、株価は明らかに割安で評価されていたわけです。
同社の社長は代々富士銀行(現・みずほ銀行)の出身者で、いわゆる芙蓉グループの富士銀行、安田生命、安田火災などとキヤノンが大株主でした。村上氏は事前に昭栄の大株主に話をしましたが、各社ともに「反対」とも「応募する」とも明確には答えなかったようでした。ただし当の昭栄は、我々がTOBを発表した翌日に「反対」を表明。かくして「敵対的」の構図になってしまったわけです。
ところが、TOBを公表したとたんに昭栄の株価は急騰します。我々が公開買付け価格として提示した額より高い価格がついたため、我々のTOBへの応募株数はわずかでした。結局、このTOBは失敗に終わります。
このとき私が実感したのは、日本における敵対的TOBの難しさです。政策保有株主=安定株主は、それまでの株価より高い価格を提示するTOBであっても、ほぼ応募してくれません。なんとなく予想はしていましたが、やはりそのとおりでした。
その状況は、最近まではあまり変わっていませんでした。敵対的TOBが成立する可能性があるとすれば、自分たちだけですでに30~40%の株を取得している場合、もしくは株主構成が分散していて、特に外国人の株主比率が高い場合、あるいは経営陣に不祥事があった場合などに限られました。
少なくとも今までは、敵対的買収者の場合は公開買付け代理人となる証券会社も限られ、買収者のアドバイザーにはならないと公言している証券会社、金融機関、弁護士事務所なども多かったのです。