毎年の支出額に違い「アリ」

判断の目安として、多くの方は「費用」に着目します。それでは、購入と賃貸でそれぞれの費用総額はどれくらいになるのでしょうか。

三井住友トラスト・資産のミライ研究所(以後、ミライ研)が、首都圏在住で子どもありの30代夫婦を前提において、持ち家と賃貸で50年間にかかる費用を試算したところ、結果は、持ち家は概算で8,310万円、賃貸は8,235万円となり、その差額は75万円となりました。

賃貸の試算において、インフレや家賃の高騰などは想定に含めていません。ファミリー用ということで、都内3 LDKの賃貸マンション(家賃15万円)を1 年目から30年間賃借し、31年目から20年間は、子どもが独立したことを契機に都内2 LDKの賃貸マンション(家賃10万円)に引越すものとしています。80代までの50年間に要する大まかな住居費として、約8,235万円と見込みました(【図表1-3】)。

●図表1-3 賃貸のケース:都内 賃貸マンション 住宅費用見込み額(50年間)

 

(出所) 三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

持ち家の試算では、首都圏に土地付戸建て住宅(物件価格5,100万円。住宅金融支援機構「2021年度 フラット35利用者調査」を参考に設定)を購入し、頭金は物件価格の2 割(1,020万円)、住宅ローンの借入額は4,080万円としています。

ローンの返済額に関しては、返済期間や適用する金利水準・金利タイプ(固定か変動かなど)によって総返済額に大きな差が出てきますので、賃貸派と比較するために、金利(固定) 2 %、返済期間35年のケースを前提とし、さらに「購入時の頭金、諸費用、毎年の税金納付額、修繕費用(外壁塗り替え、躯体防蟻など)、シニア期のリフォーム費用」などを足元の平均的な水準で見込み、足し上げた結果、8,310万円となりました(【図表1-4】)。

●図表1-4 持ち家のケース:物件価格 5,100万円 
住宅費用見込み額(50年間)─ローン金利2 %、期間35年

(出所) 三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

上記の前提をもとに試算の結果をみてみると、家の広さや住む地域が同じといった条件なら、持ち家と賃貸で総費用は大きく変わりにくいということがいえそうです。また、金額の水準に差はあるものの、首都圏以外の都市部でもこういった試算結果は当てはまるものと考えられます。

試算をみるうえでの注意点としては、持ち家の試算では、制度変更が多い住宅ローン減税を織り込んでいないので、現状のローン減税の規模が今後長期間続くとすると持ち家の費用総額のほうが安くなります。逆に、600万円と見込んでいる修繕費は、持ち家の将来の状態などによってはさらに上積みされることもありえます。

このように比較してみると、持ち家と賃貸の損得関係は少しの変化で逆転することがわかります。ミライ研では、どちらが得かは試算の要点ではなく、むしろ、住宅費用には様々な「変数」があることを確認できることがこの試算のポイントだと考えています。

50年という期間でみると、それぞれの費用は多様な変数が影響して上下します。例えば、ローン金利です。試算では年2 %としていますが、バブル期(1980年代後半から1990年代前半)は年7 %の水準でした。足元でも、日本銀行の取組み方針が変わったことを受け、2023年初から一部で金利が上昇しました。