「老後ひとり難民」は、自分のお金を誰に残せばいいのか

身寄りはなくともお金には困っていない「老後ひとり難民」の場合、自分が亡くなったあと、資産を誰にどのように残せばいいのかが悩みどころかもしれません。

高齢者向けに身元保証などのサービスを提供する事業者のなかには、利用者が亡くなったあと、「遺贈」を受ける契約を結ぶところもあります。遺贈とは、故人が残した遺言にしたがって、特定の誰かに財産をゆずることです。利用料だけでは事業が成り立たず、実質的に遺贈寄付で経営を継続している事業者もあるといわれています。

もちろん、自分を最後までお世話してくれた団体に感謝の気持ちを込め、遺産を寄付したいと考える高齢者もいるでしょう。

しかし一方で、遺贈にはさまざまな問題が潜んでいることにも目を向ける必要があります。遺贈の問題の一つは、高齢者が本当に自分の意思で寄付を決めたのかどうかを確認することが難しいという点です。

たとえば、ある民間事業者が提供する「身元保証等高齢者サポート事業」が高齢者の面倒を見ており、その高齢者の死亡後、生前の契約に基づいて事業者に遺産が寄付されたとします。

このような場合、生前の契約が本当にその高齢者の自由意志によるものなのか、それとも事業者からの働きかけによるものなのかを判断するのは容易ではありません。「認知症初期で後見人などがついていない高齢者が、言葉巧みに契約を結ばされているのではないか」そんな可能性を疑い出せば、きりがないでしょう。

また、高齢者の面倒を見る人が遺贈を受ける場合、利益相反の問題が生じる可能性もあります。その人は、高齢者に多くの財産を残してもらったほうが得だと考え、生前のお金の使用を控えさせようとするかもしれません。すると、高齢者の生活の質が損なわれてしまうおそれがあります。

高齢者の面倒を見る人と、遺贈を受ける人が同じだと、必ずこの可能性が生じますが、事業者の場合は特に厳しい目で見られています。

実際、身元保証サービスを提供していたNPO法人が、利用者である高齢者と「亡くなったら不動産を除く全財産を贈与する」という「死因贈与契約」を結び、高齢者の死後に、その契約に基づいて信用金庫から預金を払い戻そうとして拒否され、裁判を起こしたというケースがあります。

このNPO法人は、ある養護老人ホームの入所者の半数以上と身元保証サービスの契約を結び、さらに数人とは死因贈与契約も結んでいました。

一方、厚生労働省は、高齢者施設への入所について、身元保証を条件にしないよう求める通達を出しています。

裁判では、このような実態を踏まえたうえで、死因贈与契約は公序良俗に反しており、無効という判断がくだされました。

もちろん、この裁判の事例のみをもって、「身元保証等高齢者サポート事業者」が遺贈を受けることがすべてNGであるということにはなりません。

また、「この事業者に寄付したい」という高齢者の意思が本物であるならば、それが尊重されなくなってしまうのも問題でしょう。しかし、このような事例があることを踏まえれば、高齢者の意思を尊重しつつ、不正を防ぐための仕組みの整備なども考える必要があると思います。

ちなみに、遺贈についてはさまざまなケースがあります。

ひとり暮らしで相続人がいない高齢者が亡くなった際、遺産の一部の寄付を受ける人や、特別縁故者として相続を申し出たりする人が出てくるケースがありますが、なかには「なぜか繰り返し、複数の高齢者から相続を受ける人」も存在するといいます。

これはおそらく、寂しく暮らしている高齢者と仲よくし、日々のお世話をしたりすることで遺産を相続するという〝手口〞なのでしょう。

「資産家でひとり暮らしの高齢者の家に、家族ではない若い人が出入りしてお世話をしている」といった話を聞くこともあります。このようなケースをすべて「けしからん」といえるかどうかは、難しい問題です。

違法ではないというだけでなく、実際にその高齢者が満足したり感謝したりしているのであれば、外からとやかくいうべきではないかもしれないからです。

もちろん「とんでもないことだ」という人は多そうですが、高齢者当人からすれば「余計なお世話」かもしれません。高齢化が急速に進むなか、遺贈は一つの大きなマーケットになりつつあり、遺贈先をコーディネートする高齢者へのサービスも生まれています。

いずれにしても、「老後ひとり難民」の増加が見込まれるなか、このテーマは避けて通れなくなっていくはずです。

●第4回は【正解のない「老後ひとり難民」対策…リスクを減らすための準備を進めておきたい終活8項目とは?】です(9月9日に配信予定)。

老後ひとり難民

 

著書 沢村香苗

出版社 幻冬舎

定価 990円(税込)