妻の裏切り
剛典を打ちのめしたのは、なにもギャンブルの件だけではない。それらの娯楽に誘った「友人」の正体が、実は幸の不倫相手であることが判明したのだ。
共有財産の使い込み、ギャンブル依存、そして不倫――。
長年連れ添った妻が何重にも自分を裏切っていたことを知って、剛典は思わず絶句して頭を抱えた。幸を責める気力も湧かなかった。幸は壊れたように何度も「ごめんなさい」と繰り返している。剛典は目頭をもんでくらむ視界を強引にほぐした。
「なぁ、なんでだ? なんで、こんなことになった?」
「あ、あのね、私ね……」
剛典が力なく尋ねると、幸はうなだれたままぽつりぽつりと自分の胸の内を語り始めた。子育てから解放されて時間を持て余していたこと。常に周りから母親として扱われ、女性として見られない状況に寂しさを感じていたこと。そんなとき友人に誘われて行ったボートレース場で、偶然ギャンブル好きの男性と出会い、関係を持ってしまったこと。
剛典にとっては、どれも初めて聞く話ばかりだった。幸がそんな風に物事を考えたり、自分自身を評価したりしていたなんて、剛典はみじんも知らなかった。そもそも、今までの結婚生活で、ここまで真剣に幸の話に耳を傾けてやったことがあっただろうか。
剛典は幸の消え入るような声を聞き漏らさないように注意しながら、ひそかに夫としての自分を省みていた。
そして、2人きりの夜がゆっくりと更けていったのだった。