老後資金をギャンブルで溶かした妻

しかしそんな矢先、剛典は夫婦でためていた貯金がごっそりなくなっていることに気付いた。老後のための定期預金で、ちょうど今年満期を迎えるはずだったのだ。いつまでたっても満期案内が届かないことを不審に思った剛典が、会社の昼休みを利用して銀行へ問い合わせると、なんとすでに解約されているという。

もちろん剛典には、全く身に覚えがない。今は特に必要のないお金なので、今回は満期になっても引き出しせずに継続しようと話していたところだった。幸も賛成してくれていたはずなのに、一体何が起こっているのか。

その日、仕事から帰った剛典は、リビングの扉を開けるなり妻を厳しく問いただした。

「幸、説明してくれ。なぜ満期間近だった定期預金が解約されてるんだ?」

「あっ……」

剛典が幸を真っすぐに見つめて質問すると、幸は顔を覆ってわっと泣き出してしまった。しかし、これは夫婦の将来に関わる重要なことだ。泣いている幸に同情して話をうやむやにするわけにはいかなかった。

剛典は、容赦なく話を続けた。

「泣いたって何も解決しないよ。俺の質問に答えてくれ。解約の手続きをしたのは、幸で間違いないな?」

「……はい」

剛典は、幸が手のひらで顔を覆ったままうなずいたのを確認すると、さらに踏み込んだ。

「じゃあ、引き出した金はどうしたんだ?」

「それは……」

そのあと幸が涙ながらに語った内容は、剛典に大きなショックを与えた。

なんと幸は、夫婦の貯金をほとんどギャンブルで溶かしてしまったというのだ。ボートレース以外にも、競馬やスロットなど、さまざまなギャンブルに興じていたらしい。あのとき剛典に話した「友人に誘われて1回だけ」というのは真っ赤なウソで、本当は毎日のようにギャンブルに明け暮れていたのだった。