企業型DCの利用者は金融リテラシーが高め
企業型DC投資教育の効果は、次のアンケートでも見られました。野村資産形成研究センターが実施した「ファイナンシャル・ウェルネス(お金の健康度)アンケート」※によると、企業型DCの導入企業では、従業員の「金融リテラシー」「意欲」ともに高められていることが示唆されています。
※従業員規模1,000人以上の上場企業の従業員を対象にしたアンケート。調査対象は10,848人。2022年実施。
このアンケートでは、金融リテラシーについて、下記の5つの質問で計っています。
問1 元金100万円を年率2%で銀行に預金しました。2年後、元利合計でいくらでしょうか。税金は考えないものとします。(選択肢は4つ)
問2 高いインフレーションの時には、生活に使うものやサービスの値段全般が上昇する。(選択肢は3つ)
問3 世の中には、ローリスクであっても、高い利回りの運用方法が存在する。(選択肢は3つ)
問4 金利が上がっていくときに、資金の運用は固定金利、借入は変動金利にするとよい。(選択肢は3つ)
問5 ドルコスト平均法の意味を知っている。(選択肢は2つ)
回答者全体(10,848人)の傾向として、問2の正解率は75%と高い一方、問3・問5の正答率は44%でした。どちらかというと「運用」に関する問題の正答率が低い傾向にあるようです。一方、複利について聞いている問1は55%が正解しており、前述の「金融リテラシークイズ」とは、回答者の属性が異なるようです。
企業型DCの利用者(54%:年間の拠出額を把握している人数)は全問正解が19%で全体の15%よりも高く、全問不正解は7%と全体の11%よりも低くなっています。
行動に結びつけるためのヒント
次に「意欲」についてみてみます。
会社で提供している福利厚生制度全般に関する説明会や研修の参加有無では、DC利用者の25%が「資産形成に関するセミナー」に参加し、28%が「ライフプランセミナー」に参加しています。DC非利用者がそれぞれ11%、16%なので、10%以上の開きがあります。
「WEBシミュレーションツール」や「ライフプランに関する個別相談会」の過去の利用率については、DC利用者と非利用者の間には、それほどの差がありません。
しかし、今後の利用意欲については、企業型DCの利用者は非利用者よりも10%ほど高くなっています。企業型DC利用者は、今後、「WEBシミュレーションツール」を24%、「ライフプランに関する個別相談会」を19%、「活用意欲がある」と回答しています。
このアンケート結果から、企業型DCの継続教育メニューとして、次のことが示唆されます。
・WEBシミュレーションツールの活用に重点を置く
・シミュレーションのためにあらかじめ家計の棚卸しを促す
・個々人に寄り添った情報提供
シミュレーションを活用することは、資産形成を「自分のこと」と認識するきっかけになります。
ライフプランに関するシミュレーションは将来の資産形成を見直すきっかけになりますし、運用シミュレーションは、企業型DC加入者がアクセスするWEBに掲載されていることが多いため、そのまま運用見直しにつなげることもできます。
さらに、企業の福利厚生全体を比較し、見渡せるようにすることも重要です。同アンケートで聞いている「福利厚生制度に関するサポートへの不満」として、「どんな制度があるのか分かりにくい・把握しづらい」が45%を占めていることへの対応にもなりそうです。
OECDや英米等の諸外国では、金融教育の目的として「行動」に重きを置いています。知識の習得にとどまらず、家計管理や生活設計の習慣化という「行動の改善」と適切な金融商品の選択が重視される傾向にあります。
DC継続教育のアンケートでも「よくわかった」「今後、商品変更に取り組みたい」という回答があるものの、その後のデータを検証すると「行動」には結びついていないことが多くあります。
金融広報中央委員会の担っていた金融教育の機能は、今年4月に設立された金融経済教育推進機構(J-FLEC:ジェイフレック)に移管され、J-FLECは8月から本格稼働の予定です。
金融教育や金融リテラシーに注目が集まることが想定されます。企業型DCを通じた投資教育の効果や必要性がますます重要になるともいえるでしょう。