――日銀は3月18日、19日実施された金融政策決定会合でマイナス金利解除を決定し、17年ぶりの利上げが行われました。まずは先般実施された日銀の政策変更を整理していただきつつ、その影響や今後の追加利上げの可能性について教えてください。

池田 3月に開催された日銀の金融政策決定会合において、マイナス金利が解除され、イールドカーブ・コントロールも撤廃されました。それに加えて、日本株ETFとJ-REITの新規買入れも停止されました。日銀は一気に正常化に向けて舵を切りましたが、問題はこの正常化がどこまで進むのか、追加利上げの可能性と条件でしょう。

日銀は長期金利の上限を撤廃したものの、急激な金利上昇を抑制するため機動的な買入れを行うとしていますが、日銀が許容する長期金利の水準がどの程度なのかは判断が難しい問題です。従来の0.5%を起点として、現在は0.76%程度で推移しているわけですが、1%が一つの目安になるのではないでしょうか。

国債の保有残高は現状を維持するとしており、量的緩和の縮小(QT)の開始はまだ先の話だと考えられます。日銀にとっては、生産性の向上を伴う賃金・物価の好循環の定着が見極められるまで時間がかかるでしょうし、世界経済が安定的な拡大を続けるのか、景気後退に陥るのかも依然として不透明です。したがって、異例な金融緩和からは脱却したものの、種々の安全弁は用意されていると考えるべきでしょう。

――日銀の金融政策決定会合に続いて米国も連邦公開市場委員会(FOMC)を開催しましたが、この注目点をまとめていただけますか。

池田 日本は金融政策正常化に向かう一方で、米国は利下げが検討されており、そのペースや最終的な到達点が大きな議論を呼んでいます。

特に市場の最大の関心は、利下げ開始のタイミングでしょう。FRBはインフレ率の2%回帰に対して確信が持てれば利下げを検討すると示唆してきましたが、足元のインフレ指標は上振れており、確信が持てない状況です。

ただし、足元の指標は一時的な要因が働いている可能性があり、FRB当局者からはあと2〜3カ月程度はインフレ指標の推移を見極める必要があるとの見方が示されています。これを踏まえると、従来通り6月のFOMCでの利下げ開始というシナリオは維持されたと考えられます。

FRBの経済予測を見ると、従来から大きな景気後退リスクは想定していませんでしたが、今回(3月のFOMC)は成長率を上方修正し失業率を下方修正しており、力強い経済が続くとの見方を強めています。インフレ率の低下ペースは若干緩やかになるとしつつも、景気を考慮すれば利上げを急ぐ必要はないとのスタンスが見て取れます。

また、長期的に見た適切な政策金利を2.5%から2.6%へ小幅に引き上げた点も注目されます。市場では利下げ局面に転じれば景気後退に備えて大幅な利下げが行われるとの見方が根強いですが、この金利引き上げはそうした期待とは逆行する動きだと言えます。

「粘り腰」を見せる米国経済の今後は「浅い谷」で終わるか

――米国経済が堅調な要因や今後の見通しについて見解を教えてください。

池田 私自身は米国経済が想定以上に利上げの影響を受けにくい「粘り腰」の状態にあり、仮に景気が悪化しても深刻な不況には陥らず「浅い谷」にとどまるというシナリオを想定しています。したがって、そこまで大規模な利下げは必要ないのではないでしょうか。

これを裏付けるのが、家計のバランスシートの健全性です。歴史的に見ても現金が潤沢にある一方、債務はコントロールされています。そのため、利上げの影響をそれほど受けていないのですが、これは米国の企業についても同様のことが指摘できます。

では、こうした環境下ではどのような金融政策が適切なのでしょうか。過去を振り返ると利下げは2つのパターンに分けられます。典型的には大きなショックによって景気が悪化し、急速かつ大幅に金利が引き下げられます。もう一方は「予防的利下げ」とも呼べるケースで、1990年代後半に見られました。この時は小幅かつ短期間で終了し、景気や株価も底堅く推移しています。

家計や企業のバランスシートが健全であれば、今回は後者の予防的利下げのパターンに当てはまり、それほど金利が下がらないことを意味します。

――日本経済はどんな注目ポイントがあるでしょうか。

池田 日銀が指摘する賃金・物価の好循環が2年連続で確認されたわけですが、今後はその持続性が問われることになります。賃金上昇は企業収益を圧迫するため、生産性向上の伴わない賃金上昇は長続きしません。物価だけが上がれば価格競争力の低下も招いてしまいます。

したがって、持続的な好循環のカギを握るのは生産性の向上であり、そのためにはイノベーションが不可欠だと考えられます。これについては楽観視できないものの、生産性と賃金上昇の因果関係を今一度検討することはできるでしょう。

一般的には生産性が上がったことによって賃金も上昇するという説明がなされますが、それとは逆に、賃金上昇が労働意欲を高め、生産性向上につながるという因果も考えられるのではないでしょうか。

また、日本経済の特徴として物価全般の硬直性が指摘されてきましたが、その常識に変化が表れています。需給関係を反映して価格がある程度柔軟に変動すれば効率的な資源配分を迫られ、その結果として生産性向上に寄与します。さらに、人手不足を背景とした賃金上昇は、企業に省力化投資を促す効果も期待できます。