生まれつき裕福で幸運な夫

ヨーロッパでは生まれつき裕福で幸運な人を指して「銀のスプーンをくわえて生まれてきた」というらしい。夫はまさにそれだと思う。父親は国家公務員の上級職で、母親は銀行員。幼い頃からサッカーに親しみ、Jリーグのユースで活躍したがトップチームへの昇格にはあと一歩及ばず、イタリアにサッカー留学した。そこで「サッカーよりずっと面白い」料理と運命的な出合いを果たし、食の世界に飛び込んだのだという。

 

トスカーナのレストランで修業をした後、帰国して20代でイタリアンレストランを開業。グルメ雑誌などにもしばしば取り上げられ経営は順調だったが、一人息子だったこともあり、両親の近くの方が安心と5年前に店じまいしてマンションの近くにイタリアンバルをオープンした。離婚した私がハローワークで求人の相談に来た夫と再会したのはちょうどその頃だ。夫は私が看護師時代、勤務先の病院にけがで入院していたことがあった。

夫の両親は息子に面倒を見てもらう気などさらさらなかったらしく、私たちの結婚を機にこのタワーマンションの一室を夫に譲り渡し、熱海の高級老人ホームに引っ越した。今は、気候のいい温泉地でのリタイアライフを満喫しているように見える。コロナ禍の3年間こそおとなしくしていたが、昨年から今年にかけては3回も海外旅行に出かけている。