妻からの辛辣な言葉
それから1カ月後、久しぶりに家族3人そろって晩ご飯を食べることができた。
穂波は、千穂とばかり会話をしていて篤史を見ようとはしない。普段なら、その会話にしっかりと聞き耳を立てているのだが、今日はその余裕もなかった。
頭の中は仕事で一杯だった。いきなり社員が会社を辞めたのだ。
そうなると必然的に仕事量が増える。その中でも1番経験のある篤史にはたくさんの仕事が振られることになった。
「ねえ、あなた、聞いてるの?」
思わず顔を上げると、穂波と千穂がこちらを見ていた。
「え、何?」
「もう、運動会のことよ。ちゃんと休みは取ったの?」
千穂の言葉を聞き、篤史はがくぜんとした。完全に忘れていたのだ。
「あ、いや……」
瞬時にその空気を察したのだろう。穂波が立ち上がる。
「別にいいよ。今までだってお父さんは来なかったんだし」
穂波は冷たく言い放って、リビングから出て行った。穂波を呼び止めようとしたが、肝心の言葉が出なかった。
そして重苦しい空気の中、千穂が大きくため息をついた。
「……私、前から言ってたわよね?」
そこで篤史は事情を説明する。
「だから、仕方ないんだよ。これだって仕事なんだから……!」
言い訳だと自覚しながらも篤史はそう話した。
そんな篤史を千穂は冷めた目線で見る。
「稼いでないのにやる意味あるの?」
心臓を一刺しされたような痛みがあった。そして内臓から熱いものが吹き出る。それは熱い溶岩のような怒りだった。
「な、何だよそれ?俺だって、一生懸命やってるんだよ……。それを稼いでないって、よく、言えるよな……!」
「一生懸命なのは認めるけど、結果に出てないじゃない……!」
千穂も静かな怒りで言い返してくる。
「何だよ結果って……? 金稼ぐことだけが全てじゃないだろ!」
「そうよ⁉ でもあなたは稼げもしない仕事をずっとやって、家庭に何も還元してないじゃない! 私は仕事もして、育児も家事も全部やっているのよ! それなのに、仕事をしているっていう顔しないでよ!」
篤史は言葉に詰まる。千穂の言うことは正しい。しかし自分が間違っているとも思いたくなかった。
「お、俺は今の仕事に就くのが夢で、それでやりがいだって……」
そこで言葉が切れる。視界がぐにゃりと曲がり、頭がドスンと重くなった。
「何よ、言ってみなさいよ!」
千穂の声が脳内で反響し、気分が悪くなる。
「もういい。俺はもう寝るから」
篤史は逃げるようにその場から去る。
千穂は何か責めるようなことを言っている。しかし篤史にはそれが聞き取れなかった。
こんな現象がここ最近、頻発している。頭に血が足りてないような感覚がたまに襲ってくるのだ。病院に行くことも考えたが、篤史にそんな時間はないこともまた事実だった。
●家庭崩壊寸前……篤史は仕事と家庭のバランスをとることができるのか? 後編【ブラック企業で家庭崩壊寸前…妻が「ヒモになる」宣言を受け入れた理由】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。