小林美智子さん(42歳)は、3歳年上の夫・亮太と中学2年の娘・香織、そして亮太の父である一郎(76歳)と4人で暮らしていた。散歩を日課とする穏やかな一郎は、美智子さんのことを実の娘のようにかわいがってくれた。
とくに美智子さんが作る料理を、一郎はよく褒めてくれた。決して手の込んだ料理ではなかったが、美智子さんは一郎が喜んでくれる姿をうれしく思っていた。
美智子さんは自身が小さいときに病気で父親を亡くしており、実父と過ごした記憶がほとんどなかったが、義父の優しい姿におぼろげな実父の姿を重ねることすらもあったそうだ。
突如として訪れた義父の在宅介護
そんな仲むつまじい家族に亀裂が入るきっかけが生まれたのはある夏のこと。一郎が自宅の階段を踏み外し、腰に大けがを負ってしまう。パートから帰宅した美智子さんは倒れている一郎を見つけ、慌てて救急車を呼んだ。
幸い、命に別条はなかった。しかし一郎は右脚を骨折してしまっていた。満足に歩くことができなくなってしまったことで介護が必要になってしまった。
「当時、夫は出張も多い仕事で忙しく、私は近所のスーパーのパートタイムで働いていました。経済的な余裕があるわけでもありませんでしたし、時間を作りやすい私が頑張らないといけないんだと思いました」
美智子さんは夫と相談し、娘も含めた家族3人で協力しながら自宅介護をしていくことに決めた。
「自宅介護するからといって、お金がかからないってわけじゃないんですよね」と、美智子さんは当時を振り返る。可動式のベッドを購入し、自宅の廊下やお風呂場などに手すりを設置するリフォームをしたことで急な出費が生まれ、貯金をとりくずす事になった。当然、一郎の通院費もかさんでいった。
「でも、1番つらかったのはお金のことじゃありません」と美智子さん。
もともと散歩が日課だった一郎さんは事故以降、出掛けることが少なくなった。比例して家でぼんやりとしていることが多くなり、思うように身体を動かせなくなってしまった一郎は少しずつ変わっていく。