デフレが終焉しインフレに突入――世界各国の経済が転換を迎えている今、“銀行預金だけ”を持つ危険性が語られています。ただ、適切にリスクを分散させた資産運用をすれば、インフレ下にあっても自分・家族の生活や資産を守ることはできると日銀出身の政策アナリスト・池田健三郎氏は説きます。

話題の書籍『「新しい資本主義」の教科書』では、日本や世界を取り巻く状況から、投資をはじめとする資産運用の意味について分かりやすく解説しています。今回は本書の『はじめに』、第1章『「5年後の世界経済」を予測したうえで投資を!』の一部を特別に公開します。(全4回)

●第3回:タンス預金は非常識に…デフレ→インフレの転換が資産運用にもたらす“大きすぎる影響”

※本稿は、池田健三郎著『「新しい資本主義」の教科書』(日東書院本社)の一部を再編集したものです。

危険がすぐ目の前に迫っているのに動かないのはなぜ?

「我々は常に動くものの上に乗っている」―つまり自身は静止した状態を保っているつもりでも、実は自身が乗っている地盤自体は常にぐらぐらと動き続けているというわけです。この感覚は、地震大国・日本に住んでいる人々には理解しやすいかもしれません。

しかし、かなりの人は「今すぐに何か行動を起こさずとも大丈夫だろう」と、あまり本格的な対策をせずに生活しているでしょう。

これは資産運用においても同じです。私たちは先行き、大激震に遭遇する可能性があり、いつどの方向に動くのかもわからないグローバル経済の上で生活しているにもかかわらず、大事なお金をタンス預金や利息0.001%の銀行普通預金に放置していないでしょうか。

大激震がいつか来るかもしれないと予見されているのに、これまでと同じことを続けているのは、危機管理の観点からは、「何もしないという選択を『積極的に』していること」になります。ある日、危機が現実のものとなってから慌てても、まさに後の祭り、完全に自己責任です。

今、グローバル社会はインフレの潮流に入りました。それにもかかわらず、多くの日本人は「物価が高くなった」と嘆くだけで、これまで通り「何もしない」という選択をしているようです。

例えば、自分が住んでいるマンションで火災が起き、下の階から火の手が上がってくれば、さすがに「逃げない」という選択肢はないでしょう。しかし、単なる経年劣化だけでは、長年住み続けて慣れ親しんだ物件から退去する決断はしにくいものです。

とはいえ、そのマンションが耐火・耐震性に優れ、絶対安心という保証があるならまだしも、安全性能も心許なく、最近では空室が目立ち始め、管理状況が悪化し、共益費や修繕積立金は年々引き上げられ、これらを滞納する入居者も散見される、といった状況に直面したら、さすがにそこに積極的に居続ける理由はないはずです。

今私たちは、実際に火事こそ起こってはいないものの、老朽化したマンションに住んでいるようなものです。ただ手をこまねいているだけでは、さまざまなリスクが顕在化しかねない状況下にいるのです。