「家計の防衛戦略」ともいえる資産運用

こうした話をすると、「言いたいことは分かるが、資産防衛などお金持ちだけの話で自分には無関係」と言う人が必ず現れます。

しかし、そもそも資産運用は、特定の人が一夜にして巨額の富を手に入れる(あるいは失う)ギャンブルのようなものではなく、誰もが身の丈に応じてリスク(危険)とリターン(危険の代償として得られる利益)のバランス調整を図りつつ、コツコツ続けざるを得ないもので、すでにほとんどの人が(意識しているか否かにかかわらず)大なり小なり行っている活動なのです。

つまりは過去からの惰性や無計画、ドンブリ勘定などを見直し「家計のやり繰りの精緻化」を行うことを指し、資産の多寡とは関係ありません。

例えば、最近の諸物価の高騰に際しては、「来月から食用油が値上げされるので、少し余計に購入して備蓄しておこう」、「スマホの契約を見直して、安いプランに変更しよう」とか「電気料金が3割もアップしたので、当初は高額な費用が必要だが蛍光灯をLEDに交換し、さらに節電に努めよう」などと考えるのは、ごく自然な家計の防衛戦略で資産の増減に一定の影響力を持つ行動と捉えることができます。

なお、消費税率が上がったり、年金の掛け金増額、支給開始延長、金額カットなどが行われたりすると、より大きな打撃を受けるのは、富裕層よりも経済的余裕がない人のほうです。したがって資産運用や投資は、富裕層の専売特許ではなく、むしろ一般の人々こそ、将来の安心・安全のために積極的に考えて行動すべきものなのです。

第1回で述べた「家計の経済安全保障」は、国の安全保障になぞらえたもので、少々おおげさな表現になっていますが、すなわち家計の資産運用戦略であり、これは自分の将来の生活を守ること――「生活防衛」と言い換えても良いかもしれません。

そして、安全保障戦略である以上、専守防衛(ひたすら守るだけで攻めないこと)では成果が乏しく、当然に「守り」と「攻め」の両面が必要であると心得ねばなりません。