デフレが終焉しインフレに突入――世界各国の経済が転換を迎えている今、“銀行預金だけ”を持つ危険性が語られています。ただ、適切にリスクを分散させた資産運用をすれば、インフレ下にあっても自分・家族の生活や資産を守ることはできると日銀出身の政策アナリスト・池田健三郎氏は説きます。

話題の書籍『「新しい資本主義」の教科書』では、日本や世界を取り巻く状況から、投資をはじめとする資産運用の意味について分かりやすく解説しています。今回は本書の『はじめに』、第1章『「5年後の世界経済」を予測したうえで投資を!』の一部を特別に公開します。(全4回)

●第2回:絶対に儲かる投資はない、値動きの予測は困難…その中で資産運用すべきシンプルな理由

※本稿は、池田健三郎著『「新しい資本主義」の教科書』(日東書院本社)の一部を再編集したものです。

「デフレからインフレに」―経済の常識が30年ぶりに変わった!?

2020年の春から始まった「コロナ・パンデミック」をきっかけとして、それまでは「常識」とされてきたことが次々と覆(くつがえ)されています。

米国や欧州では、記録的なインフレを抑え込むために利上げを実行してきたのと対照的に、日本は長期金利を0%程度に抑える「金融緩和」を続けています。つまり、お金を増やしたい投資家からすると、円を預けていても金利がほとんどつきませんが、米ドルなら金利がつくので、円を売ってドルが買われた結果、ドル高・円安が起こったわけです。

経済において、もう一つの大きなトピックスは、1990年代初頭のバブルの崩壊以来続いていた「デフレ」が終焉(しゅうえん)したこと。2%のインフレターゲット(インフレ率の目標値を明示して行う金融政策)を掲げた「アベノミクス」でも克服できなかったデフレが、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などで世界的に燃料や食料価格が高騰する中で、円安の流れも強まって輸入物価が上昇し、ついにインフレに転じたのです。

ただし、それは日本政府が目指していた、需要増が経済の好循環を生み出す「良いインフレ」ではなく、需要増がない中で原材料価格の上昇から物価だけが上がる「悪いインフレ」です。賃金アップが物価上昇に追いついておらず、本質的なデフレ脱却をしたとは言い難い状況です。

デフレというのは、ポケットに入れっぱなしで忘れていた1万円札が数年後に出てきても、ほとんど遜色(そんしょく)のない価値が維持されているということ。それが30年も続いてしまったのです。