今後、家庭貯蓄率の低下が加速するリスクも
ただ、問題はこの家計貯蓄率を維持できるかどうかにあります。なぜなら、高齢者人口が増えているからです。
高齢者は公的年金に加え、それまで積み上げてきた貯蓄を取り崩しながら生活費に充てるのが一般的です。つまり、総人口に占める高齢者人口の比率が高まるほど、家計貯蓄率には低下圧力が加わります。
しかも日本の場合、少子化の影響で生産年齢人口、つまり労働に携わることのできる人の数が減りますから、ますます家計貯蓄率の低下が加速するリスクがあります。
家計貯蓄率が下がると何が困る?
家計貯蓄率の上昇・低下による影響を、私たちは日常生活でほぼ実感することはありません。家計貯蓄率が上昇しているといっても、個別の家計で考えれば、「今月も赤字で大変だ」という家庭はたくさんあるわけで、なかには数字と実態が乖離していると思う人もいるでしょう。
この数字は、あくまでも日本全体を捉えたマクロデータなので、その辺はある程度、仕方のないことです。
ただ、家計貯蓄率がどんどん下がると、日本の財政赤字の問題がクローズアップされる恐れがあります。家計貯蓄率が高ければ、回りまわって、ではありますが、その黒字分を活用して、国債の購入資金に充られるからです。
逆に、家計貯蓄率が動向として低下していくことになれば、財政赤字を穴埋めするために発行している国債を通じての資金調達に支障をきたし、長期金利の上昇を引き起こす恐れがあります。それが、やがて短期金利の上昇につながれば、現在、住宅ローンを組んでいる人たちの支払いに影響を及ぼします。
かつ国債の国内消化、つまり国内資金を中心にして国債発行の資金調達が困難となれば、海外からの調達に頼らざるを得なくなります。実際、財投債や短期証券を含む日本国債の保有者を見ると、2010年3月末時点における海外投資家の比率は5.69%でしたが、2021年3月末時点では14.3%まで高まっています。
海外投資家による国債の保有比率が高まると、日本の財政赤字に関する生殺与奪の権を、海外投資家に握られてしまう恐れが高まります。資金を調達したくても、海外投資家からの了解が出ないと、資金調達できないというリスクが生じてくるのです。
これは、国債発行による円滑な資金調達に支障をきたす恐れへとつながりますから、決して日本にとって良い話ではありません。こうした点も含めて、家計貯蓄率の推移には注目しておく必要があるのです。