通貨によって異なる値動き
先ほどと同じ期間(2022年初から10月21日まで)でユーロの騰落率を見てみましょう(前図表1-1参照)。ユーロは、相対する通貨によって上昇も下落もあり、強弱まちまちです。強い円安圧力と、欧州中銀(ECB)による11年ぶりとなる利上げによって、ユーロは対円では上昇しました。
しかし、FRBによる急ピッチな利上げに加え、ウクライナ危機を巡って欧州では天然ガスの需給がひっ迫。インフレと利上げによる景気減速懸念などもユーロの重しとなり、対ドルでは大幅に下落したのです。
このように、通貨によって値動きが大きく異なる点は、為替相場を見るうえで重要なポイントです。
ちなみに、先ほど、2022年は、円全面安と、ドル全面高が同時に起きていた、という話をしましたが、実はこれは結構珍しい現象なのです。
図表1-2は、国際決済銀行(BIS)が公表している、「名目実効為替レート」のドルと円を重ねたグラフです。名目実効為替レートとは、ドルに対する円、ユーロに対するドル、など、1つの通貨に対する価値を示すレートではなく、複数の通貨に対する価値を示すものです。
たとえば、BISのドルの名目実効為替レートは、60カ国・地域の通貨に対するドルの為替レートを指数化し、相手国の貿易額に応じて指数を加重平均して算出しています。いわば、通貨の総合的な価値を示す指数です。60カ国というとかなり幅が広く、多くの新興国通貨も対象に入っています。
したがって、ドルや円のような、先進国通貨で流動性も高く、国の信頼性も高く、新興国に比べて金利の低い通貨は、これら多くの通貨に対して、おおむね似たような動きとなります。しかし、2022年2月を境に、ドルと円は完全に反対の方向を向き始めました。このときに起こったのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。