資産形成をする大半の人の目的は、「老後」の生活のためでしょう。ただ、そうして迎えた“老後”において、心晴れやかに過ごせない人も少なくないと精神科医の保坂隆氏は指摘します。また、現在配偶者やパートナーがいる人も、独居老人――つまり「おひとりさま」になる可能性があることを念頭に置いておくべき、とも。

話題の書籍『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』では、孤独や寂しさとは縁遠い豊かな「ひとり老後」を過ごすための準備について、保坂氏がやさしくアドバイスを送ります。今回は本書冒頭の『はじめに』と第3章『今あるお金とうまくつきあっていく』の一部を特別に公開します。(全3回)

●第2回:親戚で揉めまくる事態にも…“子どものため”に残したお金が引き起こす悲劇とは

※本稿は、保坂隆著『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

「本物の節約」は貧乏くさいものではない

節約とは、一般に無駄を省いて切り詰めること、不要な出費を控えて無駄遣いをしないことをいいます。

知り合いのひとり暮らしのシニアはこう言います。

「節約のために、出かけるときはコンセントを全部抜いています。こうすることで少しは電気代の節約ができるはずです」

また、別のシニア(女性)はこう言います。

「うちの主人は、トイレの電気はつけっ放し、見ないときもテレビをつけっ放しでほんとうに困ります。少しは節約を心がけてほしいものだわ」

このように日頃から節約を意識するのは、家計のためになるばかりか、省エネやエコロジーにも役立ちますから、とても素晴らしいことです。

ただ、節約は、家計が苦しいから取り組むというものではありません。無駄をなくしてスリムに暮らすための方法ですから、惨めな気持ちになったり、精神的な負担を感じるようなら、まず節約に対する考え方を整理する必要がありそうです。

「節約」と聞いただけで貧乏くささを感じてしまう人は、節約=生活レベルを落とすことと思っているからでしょう。

しかし、今の世の中では「安かろう、悪かろう」は通用しません。100均ショップでも、良質な商品が手に入るのですから、工夫しだいで、生活のクオリティを落とさず、上手に節約することは可能です。

我慢する節約にはマイナスのイメージがありますが、今あるものに感謝しながら上手に暮らせるのなら、プラスの要素が大きいのではないでしょうか。

「無駄遣いをしないように」と、財布のヒモを締めるのが後ろ向きの節約なら、「無駄なく大事に使いましょう」と、モノの価値を見直して大切に使うのが、プラス思考の節約です。

いってみれば、節約とは「低く暮らし、高く思うこと」かもしれません。ただ単に経済的な効果だけをめざすのではなく、精神的な豊かさも同時に得られるのが本当の節約といえるのではないでしょうか。

往年の大女優、高峰秀子さんは、55歳で女優業を引退すると、「人生の店じまい」を考え、それまで住んでいた大邸宅を小さな家に建て直しました。

女優をやめれば、もう客が大勢くることもなくなる。そうなれば、大きな家は無用の長物になると思ったそうです。

同時に、それまで持っていたたくさんの豪華な家具も、来客をもてなすための食器類も、全部処分してしまい、4脚の椅子と夫婦が使う2組ずつの食器を何種類かという生活に変えたといいます。

こうしたスリムな生活に移行したことで、「大きな自由と、さっぱりした気分を手に入れた」と語っています。

生活に応じて暮らしをスリムにする……。まさに理想的な節約ですね。ここに貧乏くささを感じる人は皆無でしょう。

「節約なくしては誰も裕福にはなれないし、節約をちゃんとできる者で貧しい者はいない」

こちらは18世紀のイギリスの文学者、サミュエル・ジョンソンの言葉です。高峰さんは、この言葉の実践者でもあったのでしょう。