「節約」と「ケチ」は具体的にどう違うのか
子供たちが独立したのを機にひとり暮らしを始めた私の知り合いが、こうこぼしました。
「せっかく節約生活に目覚めたのに、子供たちは誰もほめてくれないんですよ」
その方いわく、先々を考えて、引き締めを心がけなくてはと思い、できるだけ無駄のない生活をスタートさせたそうです。
すると、訪ねてきた子供たちから、「お父さん、最近ケチくさいこと言ってない!?」「お金がないの?」などとけなされ、すっかりモチベーションが下がってしまったそうです。
「どんな節約を実践したのですか?」と聞いてみると、使っていいトイレットペーパーの長さを決めて、自分に言い聞かせるために「ミシン目は3つまで」と書いてトイレに貼り紙をしたり、各部屋の電気も、あたりが薄暗いうちはつけるのをやめたそうです。
たしかに、無駄にトイレットペーパーを使うのも、電気を必要以上に使うのも、資源の無駄遣いではあります。しかし、この方の場合はどう考えてもやりすぎでしょう。あまりにも力が入りすぎて、「ケチ」呼ばわりされてもしかたないと思います。
実際、節約を始めたばかりのときは、どうしても頑張りすぎるので、注意しなければなりません。
では、「節約」と「ケチ」はどう違うのでしょうか。
辞書で調べてみると、節約は無駄を省いて倹約すること、ケチは金品を必要以上に惜しむこととあります。ここではケチの「必要以上に惜しむ」というところがポイントなのだと思います。
また、「なんのために節約するのか」という、目的がはっきりしているかどうかの違いもあるようです。
なんの目的も計画性もなく、「とにかくお金を使わないこと」が目標になってしまうと、それは「ケチ」以外の何物でもなくなってしまいます。
一方、目的がマイホームのためでも、子供の進学のためでも、大きな買い物のためでも、夢や目標があって出費を控えるなら、それは立派な節約です。
ところが、「ケチ」と呼ばれる人の多くは、他人のためにお金を出し惜しむのが特徴といえます。たとえば、お世話になっている方へのお礼や友人へのプレゼント、冠婚葬祭に要する出費を出し惜しむのは、典型的なケチの行動でしょう。
人とのコミュニケーションのために使うお金を出し渋ると、周囲の人にマイナスな印象を与え、人間関係にも悪影響が出ますから、これは絶対にタブーです。
節約上手な人は、お金の使い方にメリハリをつけて、周囲を思いやったお金の使い方をするはずです。
ケチな人は、お金を惜しむあまり、心豊かに生きていくためのお金まで出し渋って、自己投資を怠りがちですが、これも人生にはマイナスです。自分を磨く機会まで自分で奪っているのです。
何よりも大事なのは、自分が満足感や幸せを得られるようなことにお金を使うことです。幸せよりもお金のほうが大切になったら、もうケチのボーダーラインを越えているでしょう。
そもそも、お金は使ってこそ価値があるものです。貯め込むことにしか興味が湧かなくなったら要注意です。
年齢を重ねるにつれて、生活防衛のためだからと貯蓄に励み、だんだんと人づきあいが悪くなる人もいますが、とくにシニアと呼ばれる年代になってからは、それはどうしても避けたいものです。
なぜなら、人間関係がその後の生活の充実度に直結する年代だからです。お金があっても、ケチだと思われて周囲から孤立したのでは、寂しい老後になってしまう可能性が高くなります。
そうならないためにも、節約をするならあくまでも目標は明確に。節約の最終目標は、上手に貯めたお金を使って幸せになることだと忘れないでください。
『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』
保坂隆 著
発行所 明日香出版社
定価 1,485円(税込)