資産形成をする大半の人の目的は、「老後」の生活のためでしょう。ただ、そうして迎えた“老後”において、心晴れやかに過ごせない人も少なくないと精神科医の保坂隆氏は指摘します。また、現在配偶者やパートナーがいる人も、独居老人――つまり「おひとりさま」になる可能性があることを念頭に置いておくべき、とも。

話題の書籍『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』では、孤独や寂しさとは縁遠い豊かな「ひとり老後」を過ごすための準備について、保坂氏がやさしくアドバイスを送ります。今回は本書冒頭の『はじめに』と第3章『今あるお金とうまくつきあっていく』の一部を特別に公開します。(全3回)

●第1回:医師が警鐘! 「下流老人」などの言葉に不安を募らせたシニアに広がる“ある病気”

※本稿は、保坂隆著『老いも孤独もなんのその「ひとり老後」の知恵袋』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

身の丈に合ったお金の使い方をしよう

お金についての考え方や使い方は千差万別です。テレビや雑誌を見ていると、お金を贅沢に使っていると自慢する人もいれば、ただ単に、いかにお金がないかを誇らしく語る人もいます。

とくに貧乏自慢は今の世の中にけっこう根づいているようで、「うちなんか、毎月、家計は火の車よ。最近では家計簿をつけるのも嫌になっちゃった」「貧乏ヒマなしで毎日頑張っているのに、ちっとも楽にならない」などといった声をよく耳にします。

基本的に、日本人は自分の立場を謙遜して言うことが多いからか、大げさな表現になってしまいがちですが、「ぜんぜんお金がない」「貯金ができない」「やりくりが大変だ」といった貧乏アピールが、反発を招くことはあまりありません。

むしろ、「苦しいのはお互いさま」といった共感を得られるかもしれません。よほど大げさでない限り、受け入れられるのではないでしょうか。

問題なのは、その人の身の丈に合っていないお金の使い方や、見栄を張った消費行動です。ちょっと格好をつけて、セレブなライフスタイルを気取ってみたい気持ちは多くの人にあるのでしょう。

実際、高齢者の中にも、いわゆる“インスタ映え”を狙っているのか、SNSに華美すぎる画像をアップさせている方が少なからずいらっしゃいます。雑誌やネットで話題の店の限定商品を先取りしたり、気前よく後輩や同僚に食事をおごったり、小さな優越感を楽しむのは時にはいいでしょう。

でも、「人にどう見られるか」を基準にしたお金の使い方は、あまり感心できるものではありません。とくにある程度の年齢になれば、流行やモノの値段に関係なく、買うものはそれなりのポリシーと自信を持って選びたいものです。

「ふだんは質素に暮らしていても、お茶だけはいいものを選びたい」
「着るものはそんなにお金をかけないけど、靴だけは質にこだわりたい」

など、自分の感性を生かした消費は、格好をつけているとはいいません。むしろ、お金の使い方にメリハリをつけて、倹約と楽しみをうまくミックスするのは、大人の賢い生活術といえます。

たとえば、セールで買った安いスカーフでも、上手に着こなせたら、何万円もするブランド物を買うより、ずっと素敵に見えるのではありませんか。

着こなし方のセンスを磨いていけば、安い品物でも「品のよい物」のように見せたりもでき、生活に新たな楽しみが生まれることでしょう。