債券、「主食」の座は譲らず 長期視点で回復に期待

では、各企業年金は運用成績悪化の「主犯」と言える債券の保有を減らすのでしょうか。

私が知る限り、そういった企業年金の運用担当者や常務理事はいません。それは、債券パフォーマンスは「底」からそろそろ脱して、今後はむしろパフォーマンスへの貢献が期待できると考えているからです。

その理由は、米FRBなどの利上げペースが既に鈍化していることが一つ。さらに今後は年内に利上げがストップして、年後半あるいは年明けにも利下げ局面が想定されるためです。

このことによって①債券価格の下落に歯止めがかかる②金利が非常に高くなっているので、債券の利子からの収入が相当増える③その後の利下げ局面では当然、債券価格は上昇する——こういったことが予想され、債券を持ち続けるメリットが出てくるという判断です。

ここは「もうしばらく我慢」という企業年金が多く、債券が年金運用における「主食」の座を明け渡すことはなさそうです。

債券投資での国内回帰の様相も

日本の企業年金の多くは資産の相当な部分、場合によっては過半を米国や欧州など海外の商品で運用しています。日本の上場株価がこの30年間でほぼ横ばいなのに対して、米国の株価は過去50年で4倍近くに上昇しており、多少の為替リスクを負っても長期的に大きなリターンが見込めるといったことが背景にありました。

その傾向に現時点で大きな変化はありませんが、小さな兆しは生まれています。

先ほどの【表2】を見ると、2022年度のリターンのけん引役は国内株式でした。これは円安が進み、製造業などを中心に業績が向上したことがあります。加えて海外に比べて日本の株価が割安との認識から、海外の投資家の買いが増えています。国内の企業年金も、銘柄選択に力を入れた日本株ファンドに従来以上に傾斜している印象です。

債券についても、変化の兆候が見られます。利回りが低いことから国内債券を手放す企業年金がここ最近、少なくなかったのですが、日本銀行が政策転換して長短金利が上昇(債券価格は下落)することを予想して、「国内債券への投資を再開するつもり」(大手IT企業年金基金の常務理事)という声が聞かれるようになりました。

また、住宅を中心に価格が高騰し、不動産ファンドの利回りも好調だった米国では、昨年後半あたりから市場が変調をきたしています。リモートワークの進展でオフィスの需要が減退。金利の急上昇で不動産投資の借り入れコストが増大したことから、先行き不安が広がって一部のファンドに解約申し込みが殺到しています。こうした状況を知った企業年金の運用担当者たちが、国内の不動産ファンドに改めて注目する傾向が出てきています。