これからさらに期待される“やめ方”を含む商品開発
老後における投資の“やめ方”は、とても難しい問題だと言われています。市場リスクのみならず、長生きリスクや最近大きな懸念となりつつあるインフレ・リスクにも対応する必要があるからです。このようなリスクに対応するために、米国では新たなタイプの変額年金保険や、老後のインフレ・リスクをヘッジするための新たな債券のアイデアなども出てきています。
新たなタイプの変額年金の代表的なものを例にあげると、従来の商品では保有資産をいったん保険会社に移転させますが、このタイプは資産を自分のものとしてキープしつつ、その口座に保険会社の保証がつくイメージです。保険会社とあらかじめ定めた額を毎年引き出しながら運用し、市場環境が悪く資産が底を突いた場合には、そこから先は保険会社が給付してくるという仕組みです。市場が下落しても給付額は減らないものの、市場が好調であれば給付額が増えるといった特性を有するタイプもあります(もちろん、その分の手数料はかかりますが)。
またインフレ・ヘッジのための債券とは「退職保障国債」などと呼ばれるもので、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・マートン教授などが提唱しています。資産形成期に毎年定額で支払い、定年退職後にインフレ調整された給付額を決められた期間、クーポンとして受け取ることができる債券です。これを活用すれば、資産を徐々にこの債券にシフトする、つまり徐々に投資をやめながらインフレに備えることができるようになります。すでに一部の国で試験的にスタートしており、今後はグローバルでもこのような債券の発行が増えるかもしれません。
このように、海外でもまだ投資の“やめ方”についてのソリューションが確立されていない一方、老後資金の確保は喫緊の課題であるため、民間のみならず「退職保障国債」のように官民あげたソリューションの開発も進んでいます。ひるがえって日本では、前述のように引き出しに貢献する毎月分配型投資信託が、そもそも2024年から始まる新NISAの対象外となっているなど、まだ“やめ方”の議論は十分でないように思います。
現役世代の資産形成も重要ですが、すでに高齢社会となっている日本にとって、今のシニア層のお金をいかに効率的に管理し、使ってもらうかも大事な論点です。今後はこの議論が深まっていくことを期待しています。