「好景気だ」と喜べない理由
このように、有効求人倍率と完全失業率の両面から見ても、今の日本の労働市場環境は極めて堅調であることが分かります。ですが、今のマクロ経済の状況には、決してバブル期ほどの好況感があるとは思えません。
それにもかかわらず、労働市場環境の現状を示す有効求人倍率と完全失業率が、バブル期に準じる数字になっているのはなぜでしょうか。
バブル期においては、日本経済の強さから求人数が求職者数を大きく上回り、有効求人倍率を高めるのと同時に失業率を低下させました。しかし昨今の状況は、日本経済が強いからというよりも、労働者不足が原因と考えられます。
つまり、求人数が増大しているというよりも、求職者数が大幅に落ち込んでいることから有効求人倍率が上昇し、完全失業率が低下しているように見えるのです。
現実に、企業はそれほど正社員を必要とはしていないようです。これは、正社員の有効求人倍率と、パートのみ有効求人倍率の数字を比較すると一目瞭然です。後者が1.35倍という高さであるのに対し、前者は1.02倍でしかありません。
他にも、労働者不足はさまざまなところに影響を及ぼします。その最たるものが賃金です。今年の春闘賃上げ率は平均で3.69%という高さになったことが、連合の「2023春季生活闘争 第4回回答集計結果」で出ています。しかし、これも日本経済が絶好調だからというよりも、賃上げをしないと人が集まらないからという事情があります。
一般的に、経済の基本書などには「有効求人倍率が1倍を大きく上回り、完全失業率が低水準の時は好景気と判断される」、「企業が儲かるとベースアップなど賃上げに動くので好景気と判断される」などと書かれています。
ですが、少子化による労働生産人口の減少(特に若年層)によって有効求人倍率が押し上げられ、同時に完全失業率が低下しているのであれば、いわゆる好景気に該当する状況であったとしても、日本経済の強さとは別問題と言えるため、単純に喜べる話ではないということなのです。